反転した世界にて7 (裏)
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ことがあるの」
「! ……、ぅん」
伝えたいことがある、と。その言葉は翔子にとって確かに本心だったが、しかし真実ではなかったかもしれない。
休み時間に、拓郎を屋上に呼び出した後。翔子は六限目の授業中、如何にして自分の気持ちを拓郎に伝えるか、ただそれだけを考えて、一限を過ごしていた。
自分が拓郎に憧れた理由を、拓郎が如何に美しく可憐で高嶺の花のような存在であるかを、原稿用紙換算で数十枚にもわたるような言葉の数々で彩って、拓郎に語り聞かせようとする準備を整えていたりした。女性向けゲームのやり過ぎである。
しかし、実際には翔子が暗記した告白論文が、拓郎に対して公開されることはなかった。
――翔子が拓郎に伝えたい言葉は、たった一行であらわすことができるのだから。
「好きです! 私と付き合」
「よろこんで」
「え」
「あ」
――こうして、翔子と拓郎は付き合うことになったのだった。
◇
それからというもの、翔子の人生はこれまでからは考えられないほどに輝きまくっていた。
思いが成就したその日の放課後、駅までではあったけれど、拓郎と肩を並べて一緒に帰り道を歩くことができた。その最中に、連絡先を交換するところまで行ったところまでは、翔子の記憶にもしっかりと記されている。
しかしその後のことは、実のところ翔子はよく覚えていない。気がついた時には、翔子は友人たちに告白成功の報告をメールで送信していた。
彼女がメールを送った対象は、学食にて告白を宣言した四人に対してだけだったのだけれど、返信されてきたメールはその何倍もの数に及んでいた。
「――はっ……!?」
――翌朝。自室のベッドの上で目を覚ました翔子は、いつの間に眠ってしまったのかと考えて、昨日の出来事を思い出そうとする。
――そして、自分が拓郎に告白して、それを受け入れてもらったことを思い出した。
思い出したのだが、――ああ、夢か。と。納得しそうになる。
――あの春眠暁の眠り彦”が、自分のようなもやし女と付き合ってくれるなんて、そりゃあ夢でしかないよ……などと心の内でつぶやきながら、何気なく自分の携帯を手に取って、
「……――っ!!」
電話帳の一番上に記されている、拓郎の連絡先を見て、昨日の出来事が夢ではないことを察する。
――が、今度はこの現実こそが夢なのではないかと不安になり、しかし携帯に届いている友人たちや、ほとんど面識のない女子からと思われる、嫉妬に満ちたメールを見て、やっぱり現実なのだと納得するというような、ふわふわとした朝を過ごすこととなった。
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