第九十二話 これは急がなきゃな
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その強さは、父親のように気高くあろうと決めていた。
父親はこの国の騎士団だった。
任務中の怪我が原因で他界してしまったが、カイバはそれを誇りに思っていた。
任務は、盗賊を捕らえることだった。
もちろん、父親は見事やり遂げた。
しかし、その最中に受けた怪我が原因で亡くなったのだ。
死んでしまったのは悲しくて仕方が無かったが、命を賭してまで任務をやり遂げた父親をカイバは尊敬していた。
いつも父が言っていた言葉は「自分の中の正義を信じろ」だ。
カイバはその言葉を支えにして、今まで生きてきた。
そして、これからもそれを信条に父の後を継いでいこうとしていたのだ。
(それなのに……)
悪党の言うことを聞いて、不正を行おうとしている。
それは間違いなく自分が信じる正義とはかけ離れたものだった。
(だけど……それでも……)
ヨッチだけは、家族だけは守らなければならない。
カイバは自分の無力さに歯を食いしばり体を小刻みに震わせていた。
本当は誰かに助けを請おうと思った。
だけど、そのせいでヨッチに危険が及ぶことを考えると、どうしても行動を起こせなかった。
何度闘悟にも話そうかと思ったか。
だが結局は話せなかった。
本当は助けてほしかったのに、何も言えなかったのだ。
できたのは、ただの強がりだけだった。
(ゴメンなヨッチ……お兄ちゃん、悪いことしちまうよ……)
カイバは諦めたように目を細めた。
自分を信じて闘っているヤーヴァスの隙をついて、『毒針』を刺す。
まさに卑怯者で悪党の所業に違いない。
誰かの信頼を裏切り、大会を汚す行為を行う。
無論自分の本意ではないが、それでも自分には優先すべきものがあるのだと言い聞かせる。
心の中で、誰にともなく謝罪し続ける。
ただの自己満足に過ぎないが、そうすることで他のことを考えないようにした。
ただ家族を、妹を助ける。
そのことだけを考える。
カイバは空を見つめながら歯を食いしばり決心を固めた。
「カイバァァァァァァァッ!!!」
そんな時だった。
自分の名を呼ぶ声がした。
その方向へ視線だけを向けると、そこには怒った表情で、自分を見下ろす闘悟がいた。
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