第百二十四話 評判その五
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「我が上杉軍は義の軍なのですから」
「義の為に戦いそして降す」
「それが我等ですからこそ」
「卑怯未練はなく」
謙信は己への戒めも言う。
「民、降った者を害することもなりません」
「あくまで戦の場で戦うのみ」
「そして降すのみなのが我等だからこそ」
「そうした行動は私が許しません」
謙信は心に剣を持って告げた。
「例え何があろうとも」
「心得ております、それでは」
「我等もまた」
二十五将も兼続もだった、謙信のその言葉に頷いて応える。
そのうえでこれからのことを考えるのだった、謙信もまた信長を認めていたがそれ故に警戒するものもあった。
東国の二人の英傑達だけが信長を認めているのではなかった、それは安芸の毛利元就もだった。
彼は吉田郡山城において息子達や家臣達にこう告げた。
「織田信長、わしが最初に見ていた以上じゃな」
「それ以上の器の持ち主ですか」
「あの者は」
「そうじゃ」
息子達に応えて言う。
「まさにな」
「ではその織田と対することは」
「それは」
「対すれば滅ぶ」
これが元就の見立てだった。
「あの勢力に織田信長の資質」
「その二つがあるならばですか」
「我等が若し織田家と戦になれば滅ぶ」
「そうなるのは我等だと」
「殿はそう仰いますか」
「皆そう思っているであろう」
元就は緑の毛利家の色の服の彼等に問い返した。
「そうではないか」
「確かに、それはです」
「その通りであります」
二川の元春と隆景が言ってきた、この二人と次の主隆元が元就を支えているのが今の毛利家の状況である。
そのうちの二人が元就に言ったのである。
「織田は強いです」
「力も数も違います」
「到底相手にはなりません」
「絶対に」
「それがしもそう思います」
その隆元も言う。
「やはり、力が違い過ぎます」
「そうじゃな。しかも」
今度は元就が言う。
「我等は天下を望んではおらぬ」
「あくまでこの地の覇を持つだけ」
「そして生きることですな」
「天下を望むのは確かに気味がいい」
そう思うだけでだ、元就は家臣達に話す。
「そして若し天下を手に入れれば」
「まさにあらゆるものを手中に収められる」
「そうですな」
「うむ、しかしそれを目指しても生き残る者は僅かじゃ」
元就がここで言うのはこのことだった。
「残る家は一つじゃ」
「そして生き残れなければ滅ぶ」
「そうなりますな」
「そこまでして望むものはない」
家の存続を第一に考える元就らしい考えだった。
「だからじゃ」
「織田家とは天下を巡っては争わぬ」
「決してですな」
「それがわしの考えじゃ」
元就はまた言った。
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