第百二十四話 評判その三
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「御主もじゃ」
「それがしもですか」
「忍の心得はあるな」
「はい」
十勇士だけではない、彼等の主である幸村もまた忍の心得があるのだ。それ故に言うのだった。
「では」
「必要とあれば三河に入れ」
「そして調べよと」
「左様、御主や十勇士達は忍であっても暗殺等は得意ではない」
これは性格的な問題もある、十勇士達はかなり陽気な者達であるが故にそうした陰の仕事は得意ではないのだ。
信玄もそれがわかっている、それで言うのだ。
「だが諜はいけるからな」
「だからですか」
「そうじゃ、だから頼むぞ」
こう告げるのだった。
「三河のこともな」
「畏まりました、それでは」
「織田とは暫くは何もないであろう」
あくまで暫くは、だった。
「上杉、北条も気になるが政に専念するぞ」
「さすれば」
「数年は動かぬ」
信玄のこの考えは変わらなかった。
「戦は焦ってはならぬ」
「そして勝ち過ぎてもならぬ」
「御館様がいつも仰っていますね」
「その通りじゃ。焦っては周りが見えなくなる」
人自体についても言えることだった。
「そして勝ち過ぎては慢心を生む」
「それが破滅につながる」
「そういうことですな」
「そうじゃ、だから焦りと勝ち過ぎはよくはないのじゃ」
信玄独自の考えだ、ここでは焦りである。
「じっくりと腰を据え今の国を治めるぞ」
「甲斐、信濃、駿河、上野を」
「そうされてからですな」
「そのうえで動いてよい」
遅くはないというのだ。
「織田家は確かにかなり大きくなったがな」
「家は当家だけではありませぬな」
穴山が言う。
「だからですな」
「その通りじゃ、武田だけではない」
合従連衡、信玄の頭の中にはこれもあった。
そしてその考えからなのだ。
「織田とことを構える場合もやり方はある」
「ですな、では今は」
「じっくりと政をしましょうぞ」
信玄は信長の器を認めながらもそれに対するやり方も考えていた、それは目先のものだけを見ているものではなかった、それでだったのだ。
武田の赤い軍勢は今は動かなかった、周囲を睥睨してそのうえで力を蓄えているのだった。
越後の上杉もだった、謙信は春日山城において二十五将と直江兼続を前にしてこう言ったのだった。
「織田信長、あの拝領ですが」
「まさかと思いましたが」
「やりましたな」
直江と宇佐美が言う。
「朝廷との話を進めそのうえで」
「東大寺に出させましたな」
「尾張の蛟龍、天にさらに昇りました」
これが謙信の評である。
「まさに高みに立ちました」
「ここで気になることですが」
兼続が言ってきた。
「帝、そして家臣と民のことを忘れなかったことですね」
「私もそのことを見ています」
謙信もだ
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