第三幕その十
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第三幕その十
「はい、そうですが」
「思い出した、それを」
「他の方や姉妹達はあの方を好いてはおられませんでしたが」
「あれと仲がよかったのはわしと」
まずはヴォータンだった。彼にとってローゲはまさに助手だったのだ。
「そして御前だけだった」
「色々と思うところがあったようで今はおられませんが」
「それも仕方ないことなのだろう」
今はそのローゲの側に立って言うヴォータンだった。
「だがわしは今決めた」
「それで何をですか?」
「御前ならばあれも戻ってくれよう」
こう言うのだった。
「では眠るのだ」
「御父様、それでは」
「御前は一人の英雄の妻となる」
これまで以上に優しい言葉だた。
「今それを告げよう」
「有り難うございます、それでは」
「眠るのだ」
安堵した娘にまた告げた。
「そしてさらば」
「はい」
「勇気ある輝かしき娘よ」
娘に告げ続ける。
「我が心の聖なる誇りよ、御前と別れの時が来たのだ」
「もうこれで」
「わしの愛の言葉も挨拶も許されん。最早共に並んで馬を駆ることも蜜の酒を御前から受けることもなくなった。愛した御前を失わなければならん、しかしだ」
「しかし?」
「花嫁の炎が御前の為に燃え上がる」
こう告げるのであった。
「どの様な花嫁も得たことのない程の炎を」
「その炎が私を」
「そうだ。今それが御前を包み」
彼は言う。
「弱い者を退ける」
「有り難うございます、それでは私は」
「神たるわしよりもさらに自由である者が御前を手に入れるのだ」
そして最後に娘をいとおしげに見て言うのだった。
「輝く二つの目よ、わしはそれに愛をもって微笑みかけ」
その手に触れる。最後に。
「戦いの喜びをもって口付けをしその言葉を聞いた。それも終わりだ」
「もうこれで」
「わしに希望を与え不安を消し去ってくれたその瞳にも別れ新たな男に与えよう」
まさに花嫁への言葉だった。
「こうして神は御前から去る。父もまた」
「さようなら。永遠に」
「眠れ」
静かに告げた。ブリュンヒルテはその場に横たわる。そのまま槍と楯を横に眠りだす。その娘の前に立ちヴォータンはその槍をゆるりと回した。
すると槍に炎が宿る。炎は槍の動きに合わせてブリュンヒルテを包み込んだ。ヴォータンはその炎に対して厳かに告げるのだった。
「ローゲよ、聞け」
その炎への言葉だった。
「わしが御前に会った時御前は燃え上がる炎だった」
このことを炎に告げるのだった。
「そしてわしの前から去る時は彷徨う炎だった。そして今」
言葉を続けていく。
「御前と共にあった時の様に今御前をここに呼び出す」
ローゲの姿ではない。炎だ。その炎に言っていくのだった。
「揺らぐ炎よ燃え上が
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