第二部まつりごとの季節
第三十九話 近衛衆兵鉄虎第五〇一大隊編成に関する諸事情について
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分にゃ面白いですけど」
大隊本部は不夜城――と言うのは些か大げさだが、寝る間を惜しんで改善、改良の為の膨大な事務に没頭している。
そして益山中尉は、堂賀次長の下にこの新編大隊の状況を伝達しなければならない。
もちろん、衆兵隊司令部やら総軍司令部と、上層部にも同類が居るであろうことは疑う余地はない。政治的駆け引きの産物であるこの大隊は、一個大隊として――それも近衛衆兵のそれとして――みるのならば異例の政治的価値を持っているが、けしてそれ以上ではない。
益山中尉が選ばれたのも非公式に特設高等憲兵隊の情報提供者であるのと同時に、前線での経験が相応にあるからであり、有益な情報を期待されたからではない事は、彼自身、理解している。
「確かにこれは――いくらなんでも面倒事のにおいがするよな。藤森首席幕僚殿、御自ら受け入れ準備をしているみたいだが」
戦務幕僚の青木大尉が苦笑し、答えながらも報告書を仕上げる。もちろん、益山も幕僚としての職務は裏仕事以上に優先している。何しろあのおっかない大公閣下に怠慢無能と追い出されては話にならない。
いや、寧ろ馬堂中佐が推薦した以上、間諜としての役目すら大隊長の合意の上で此処にいるのである。だからこそ幕僚として勤勉に働き、特設高等憲兵隊の一員としての職責も同時に果たさなければならない。
「正直、荷馬も剣牙虎の所為で調子が悪いのに騎兵の馬とか勘弁してほしいのだが――
大公閣下の思し召しだからな、畜生め。」
兵站幕僚の山岡中尉が呻いた。
「まったく、坂東殿の龍兵の方がまだ管理が楽かもしれないな・・・」
ぶつぶつと文句を言いながら彼もまた手際よく書類を片付けている。
こうして大隊の中枢だけあり、全員が愚痴を零しながらも未処理書類山脈から未を取り去った。
「それじゃあ、俺が渡してきます」
皆が口々に頼んだとか黒茶淹れてこいとか好き勝手云っているのを聞き流し、それらの書類を取り纏め、大隊長に提出しようと益山は部屋をでる。
「――おや?」
すると、軍隊生活では余程恵まれていないと見ることのない、美貌が視界に入った。
「これはこれは副官殿。お疲れ様であります、大隊長殿は執務室においでですか?」
「情報幕僚殿ですか。はい、大隊長殿は部屋にいらっしゃいます。私もこれから向かうところです」
そう言って歩きだす背を見ながら考える。
――さぁて、後はこの不憫な副官殿から人生相談でも受けられたら良いのだけれど。そもそも将官の特権である個人副官が大隊長に附いているのだ。何もかもが胡散臭すぎる、彼女の飼い主を確かめたいが――。
「・・・・・・」
無言で歩く姿はどこか寂しげてある、いかに両性具有者が美貌の持ち主であることを割り引いても若いのは確かだろう。
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