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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十九話 近衛衆兵鉄虎第五〇一大隊編成に関する諸事情について
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う。使い難くはなるが――」とその時、扉を叩く音がした。
「大隊長殿、失礼します」
 入室してきたのは大隊情報幕僚である益山大尉だった。馬堂中佐が推薦した将校で、何処か軽薄な調子の男だが要点を得た仕事をする為、そうした言動も概ね本部の空気を良くしていると受け取られている。
前歴と馬堂豊久の意向を考えるならば馬堂の――或いは堂賀准将の息がかかっていると考えるべきだろう。だからといって新城は手放すつもりは更々ないのだが。

「貴様、仕事はどうした」
 藤森が剣呑な口調で詰問するが本人は暖簾に腕押しと言った調子で
「はい、首席幕僚殿、来る前に済ませてから参りました」と調子を崩さずに返答する。
これには流石の藤森大尉も閉口してしまった。
「それで、情報幕僚。なんの用だ?」
と新城は玩具屋の前を通る子供のような口調で尋ねた

「少々、面白い話を聞きまして」と益山は軽妙な口調で云う。
――面白い?



六月一日 午後第三刻 粟津内料亭
独立混成第十四聯隊 聯隊長 馬堂豊久中佐


 面倒事は思いもよらぬ処からも寄ってくるものであるし、予期している処にも予想以上の勢いで迫ってくるものでもある。つまりこの世は面倒事だらけであるのだ。
 ――口でそう嘯いても度々なんでこんな処からと毒づく羽目になるのは何故だろう?
 うんざりとそう思いながら馬堂中佐は睡眠不足で少々腫れぼったい目を向け、ため息交じりに言葉を紡ぐ。
「そう言われましてもねぇ。一応編制表も提出していますし――兵站も混乱しかねませんよ、益満大佐殿」
 体面に坐す、近衛禁士隊首席幕僚である益満昌紀大佐が少し困った顔で言った。
「だがな、練度は折り紙つきだぞ?それに、馬は剣牙虎に慣れているし、尖兵としても使える。
貴様の連隊でもそうそう困らない筈だ。偵察用の軽騎兵中隊を編制に入れているだろう?
その増強としてくれるだけで良いのだ」
 今の話題は大佐殿の古巣である近衛禁士第一聯隊第二大隊から一個中隊が御家騒動の末に追い出されるとの事である。
 元は守原の家臣団の一門である塩野家当主が夭折し、紆余曲折の末に弟が家督を継いだらしい。その為、現在、禁士隊 最精兵部隊の一角を担う中隊を正統ではないからと、禁士隊に置いては置けなくなった、と益満大佐は馬堂中佐に説明している。
 ――まぁ、禁士隊の存在意義を考えれば分からないでもない。通例の通りならば主家の領に置かれた鎮台に異動して終わりなのだ。
この件が問題になったのは正統云々の際に相当揉めた影響で、護州鎮台に居場所がなくなった事である。
――そして、その大揉めした騒動の後始末を押し付けられるのは禁士隊司令部の幕僚陣である。とりわけ、面倒見が良い性質のこの益満大佐殿は前第二大隊長として共に精兵部隊の名を共に勝ち取
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