第二幕その九
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第二幕その九
「ですからもう」
「ジークリンデが喜びと悲しみで生きる世界に」
そのブリュンヒルテに対しての言葉だ。
「ジークムントも留まりたいのです。貴女の眼差しはまだ私に死をもたらしません。私をヴァルハラに連れて行くことはまだないのです」
「貴方が生きている限り貴方を強いるものはありません」
ブリュンヒルテも引かなかった。引くわけにはいかなかった。
「しかし死がその貴方を誘っているのです。ですから私はここに来たのです」
「私に死を与えに」
「そう。貴方はある戦士に倒されます」
「それではです」
ジークムントは問う内容を変えてきたのだった。
「私を倒すその戦士は一体」
「フンディングです」
彼だというのである。
「彼が貴方を倒します」
「馬鹿な」
ジークムントはその言葉をすぐに否定した。
「私を倒せるにはあの男より強い力が必要です」
「それは」
「だからあの男では無理です」
今の彼にはそれがはっきりとわかっていたのだ。
「この私には」
「ですがもう決められたことです」
「いえ、この剣があります」
ジークムントは今も手に持っているその剣を見せたのだった。鞘にも入れられていないその剣は白銀の光をおのずから出しているかの様に輝いている。
「これを作ったその人が私の勝利を知っています」
「その人がですね」
ブリュンヒルテはそれを聞いて悲しい顔にならざるを得なかった。
「貴方にその剣を」
「だから私はあの男に倒されることはありません」
彼は断言さえしてみせた。
「決してです」
「いえ、違います」
ブリュンヒルテはその悲しい顔で彼に返すしかなかった。
「その剣を作ったその人がです」
「父上が」
「そうです。今や貴方の死を知っています」
こう告げるのである。
「彼が剣の霊験を奪うのです」
「馬鹿な」
ジークムントはその言葉を否定した。否定せざるを得なかった。
「そんなことはありません」
「いえ、ですが本当なのです」
「本当だと」
「そうです」
ブリュンヒルテの悲しい顔はそのままであった。
「貴方はヴァルハラで永遠の喜びを得たいと思わないのですか」
「いいえ」
毅然として首を横に振るだけだった。
「そんなものは全く」
「ではこの人だけが全てだと」
「そうです」
二人は今度はジークリンデを見ていた。そのうえでの言葉だった。
「このジークリンデだけが」
「苦しみ疲れきった」
ブリュンヒルテはジークリンデも悲しい目で見て告げた。
「この人だけが」
「貴女は確かに若く美しく輝いている」
それはジークムントも認めることだった。
「だが」
「だが?」
「冷たい人だ」
冷然とした声で告げるのだった。
「その貴女の
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