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東京百物語
ゆり
一本目
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が唇からのぞいた。



「このままではなあああああ」



 老婆の声が夜に響き渡った。隣の山下が怖くなったのか、それとも慰めるつもりなのか、ゆりの手を握ってきた。



「う、嘘、いわないでください!そんな、お化けなんて、し、死ぬとか!」



 山下が声を上げる。



「嘘ではないぞおおお!」



「・・・わたし」



 ゆりが重く口を開いた。



「ここ一月ぐらい見られてる、って思うこと、何回かあって・・・でも気のせいかと思ってて・・・」



「ゆりちゃん・・・」



 山下が気遣わしげにゆりを見る。



「おばぁさん!」



 山下はゆりを守るようにキッと一歩前に出ると、言った。



「もし、もしも本当にゆりちゃんが取り憑かれていたとして、どうしたらいいんですか」



「それはああああああああ、除霊するしかないでしょうううううう」



「除霊・・・」



「しかし見たところ、どうやらとても強い霊のようなのでええええええ、わたしにも準備が必要ですううううううううう一週間後にまた来なさいいいいい」



「おばぁさん、そう言ってお金取ろうとする気じゃ・・・」



「あなたああああああ!命とお金どちらが大事なのですかぁああああああああ!」



「やっぱり!ゆりちゃんいこっ!(せい)もっ」



 山下は怒り、ゆりの手を引いた。青山も帰ることに別段異存がある訳でもないようで、山下に名を呼ばれていつもと変わらない優しい微笑みを浮かべたままついてくる。ゆりだけが、気遣わしげに後ろを振り返る。



「待ちなさいいいいいいい!」



「待ちますか。べーだ」



 山下は舌を出していたが、ゆりには老婆の言うこと全てを嘘だと思い切れなかった。



「このままでは、あなた、死にますよおおおおおおお!」



 追いかけてくる(しわが)れたその声が、ゆりの耳にいつまでも残った。
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