第三十三話 疑惑
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ゼルローン要塞攻略戦、兵の動員そのものは秘匿しなかった。五万隻近い艦艇を動かすのだ、フェザーンの目を晦ますのは簡単ではないだろう。だから帝国も同盟の軍事行動を知る事は難しくは無かったはずだ。問題は作戦計画だ、何故ブラウンシュバイク公は知っていたのか……。
「もし情報漏洩が有ったとするとブラウンシュバイク公は遅くとも五月の中旬から末頃には情報を得ていた事になります。そうでなければリューネブルク中将が七月の上旬にイゼルローン要塞に居る事は出来ません。オーディンからイゼルローン要塞までは約四十日かかります」
「うむ、と言う事は五月の末の時点で誰が作戦の内容を知っていたかが問題になるわけだな」
「情報漏洩が有ったとすればです」
シトレ本部長が頷いた。
「私があの作戦の基となる作戦案を宇宙艦隊司令部に提示したのが五月の上旬です。そして作戦案が完成したのが五月の下旬に近かったと思います。ブラウンシュバイク公が情報を得たのが五月の中旬から下旬。この時点で作戦内容を知っていたのは宇宙艦隊司令部と統合作戦本部の一部です」
本部長の顔が歪んだ。そう、論理的に追っていけば情報漏洩者は身近にいるとしか思えない。そして本部長自身もその容疑者の一人という事になる。
「……ローゼンリッターが作戦内容を知ったのは何時だった?」
「作戦を説明したのは六月に入ってからです」
「六月か……」
本部長が考え込んでいる。やはり本部長もローゼンリッターを疑うのか……。
「もし彼らが情報漏洩者なら、リューネブルク中将は我々がイゼルローン要塞に到着する二、三日前に要塞に着いたことになります」
「不可能ではないが……」
本部長が呟いた。確かに不可能ではない。しかし余りにも時間に余裕が無さすぎる。現実にはとても可能だとは思えない。
遠征軍の総司令部でもローゼンリッターに疑いが向けられた。時間的に余裕が無い事を私が指摘すると皆口を噤むが納得はしていない。皆自分の周囲に情報漏洩者が居るとは考えたくは無いのだ。どうしても亡命者の子弟から成り立つローゼンリッターに疑いが向く。
「不可能ではありませんが難しいと思うのです。それにブラウンシュバイク公にしてみれば情報を得た時点でイゼルローン要塞に警報を発するだけで良い。リューネブルク中将をイゼルローンに送る必要は有りません」
シトレ本部長が私をじっと見た。
「……君は、ブラウンシュバイク公が見破った、そう思うのだね」
「……」
答えられない……。あの作戦は正攻法とは言えない、奇策だ。或る意味もっとも愚かしい作戦だと言える。だからこそ敵も意表を突かれると思った。だがそれをブラウンシュバイク公は見破っている。いや、見破っているとしか思えないのだがそんな事が有るのだろうか? どうにも信じられない……。
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