Episode 3 デリバリー始めました
翡翠の営巣
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の器官と同化させるという外部的なアプローチになる。
だが、これは……
見れば、ひどい火傷を負っていたはずの部下の顔や手足からも醜い火傷の痕が消えていた。
しかも、その身に帯びる理力の強度が明らかに……
「驚いただろう? ワシの使う治癒術とはまったく逆だ。 これは、体の内側から必要な物質を補って、さらに患者自身の持つ力を増幅して同じ効果を生み出している」
おそらく、単純に怪我の治癒というならばシバテン治癒官の技術のほうが優れてはいるだろう。
だが、これは単に目先の効果のみを考えないのであれば……
いや、むしろ細やかな内臓系の疾患へのアプローチを考えるなら……
「考えるな、ドミトリー。 このメシは美味い。 ただけそれだけでいいではないか。 何でも自分の仕事に結び付けて役立つかを考えるのはお主の悪い癖だ」
中隊長の思索を断ち切るように、治癒官は付け合せの緑の瓜の千切りを美味そうに齧りながらそう窘めた。
「だ、だが、この技術を利用すれば兵士の体力や生命力を一時的に底上げ……」
「やめておけ。 独占すれば恨みを買うぞ。 最初からこの技術はお前のものではない」
明るい太陽の下、兵士たちがこぞって弁当の中身を奪い合っている。
その光景はあまりにも平和で、幸せそうで、ここが対勇者の最前線であることを思わず忘れそうに……いや、忘れることができればどんなに幸せなことだろうか。
この輝かしい光景が、嵐の海のつかの間の凪の間に巣を作る翡翠の営みだとは知っていても、そう考えざるをえない。
「……惜しい。 むしろ欲しい」
キシリアという妖精を配下に迎えることが出来たなら、兵士たちの顔にも笑顔が多くなるだろう。
そして、いま笑いあっている兵士たちが無事に故郷に戻る可能性を大きく底上げできるだろう。
――勇者と言うバケモノたちにさらされる、この砦に勤める兵士の生存率はお世辞にも高くない。
「なら、彼女の技術を誰かに学ばせて……」
新たな技術の獲得にボイツェフ中隊長が意欲をみせたその時だった。
鐘楼から、慌しく鐘が鳴る。
そして、斥候のゴブリンが高い見張り台の上から喉が裂けんばかりの声で叫んだ。
「てっ、敵襲! 敵は炎を操る勇者とその一行!!」
彼等の幸せな昼食が終わる。
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