Episode 3 デリバリー始めました
翡翠の営巣
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がある代物である。
だが、それを野外に携帯する食料の器としてオマケのように使用している神経が理解できない。
そしていぶかしげな表情のまま弁当の蓋を開くと、焼き立ての北京ダック香りが周囲に溢れかえる。
同時に、ボイツェフ中隊長の腹からグググと低い音が響いた。
「こ、これは…………もはや言葉が出ませんな。 自分の語彙の少なさを恥じるばかりだ。 あぁ、匂いだけで涎が止まらない」
自らの腹の底からわきあがる衝動に従い、思わずその飴色の焦げ目の付いた鳥の皮を指で摘もうとするが……
「あー 中隊長。 食べ方が違う」
部下のゴブリン兵が横から口を出してきて食べ方を指南する。
ちなみにこ兵士はもとよりキシリアの店の常連だ。
先にマルから食べ方をしっかり教えてもらっているため、先ほどからしたり顔で周りに食べ方をレクチャーしている……まぁ、どこにでも一人はいるタイプのヤツだ。
「この白くて平たい食べ物の上に、この焼いた鳥の皮を置いて、細切りにした瓜も乗せて、巻いてからこの茶色い液体(醤油)につけて食べるんだよ」
「な、なかなか面倒だな」
慣れない手つきで中隊長がクレープを巻く様子を、いつのまにか周囲のゴブリン兵たちも暖かく見守り始めた。
ちなみにこの世界には、キシリアの自宅と一部の魔王の城を除いて、まだナイフもフォークも存在していない。
スプーンは主に薬剤師の計量用だけである。
よって、砦をあずかる中隊長でも、国を束ねる魔王でも、食事の基本は生肉を指で摘んでガブリが普通だ。
そんな中隊長が危なっかしい手つきで北京ダックをまいたクレープをタレにつけて頬張ると……
「……まいった」
最初に出てきたのは、他でもない敗北宣言だった。
一口噛めば、口の中に広がる甘くて香ばしいクレープ生地と味噌とゴマ油ベースのタレのハーモニー。
その奥からは、淑女の夜着のようにささやかな麦芽糖の甘みに包まれた、濃厚でまろやかな北京ダックの脂が千夜の逢瀬の睦言のようにマッタリと舌に絡み、一緒に巻き込んだ緑の瓜が油のしつこさを後朝の台詞のようにサッと余韻を残しながら洗い流す。
しかも……
「ただ美味いだけでなく……まさか、食料に理力を仕込むとはな。 この作り手は何者だ?」
飲み下せば、腹の底から暖かな力がわきあがり、全身を力強い息吹が吹き抜ける。
耳を掠める痒みにも似た快感を覚えて手をやれば、数年前の戦いで半分千切れたはずの耳がその形を取り戻していた。
戦いの勲章として、わざとそのままにしていた傷だったが、まぁ、治ったならば直ったで嬉しいものだ。
やろうとすれば目の前の治癒官にも同じことが出来るだろうが、彼の技術は外部を治療用の物質で覆い、その物質を患者
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