Episode 3 デリバリー始めました
翡翠の営巣
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「で? この情報は間違いないんだろうな?」
通話機の向こうから聞こえてくるキシリアの声はトーンがいつもより低く、不機嫌というよりは不信感に満ちていた。
「無茶言うニャア。 これだけの時間に全員の名前と種族とアレルギー調べるのは骨が折れるニャ。 多少のミスは大目に見て欲しいニャ」
キシリアからの通話に応答しているのは、一人砦に送られたマル。
昨日のうちに砦にたどり着いた彼は、キシリアにこき使われている弟たちとは裏腹に、客人と言う待遇をいいことに三食昼寝つきのVIP待遇を満喫していた。
そして通話にでる声は、さも哀れを誘うかのような悲痛な声だが、実際には顔が見えないことをいい事に、フカフカのソファーに腰掛けて鼻をほじりながらの対応である。
そんなマルの手には、チラシの裏に書いたへたくそな文字の羅列。
ミミズが瀕死のダンスを踊るがごとき特徴的な悪筆で記されているのは、この砦に駐留している兵士と職員の名前と種族の一覧だった。
なぜそんなものを確認しているかというと、この砦の住人の種族の多様性に問題があるからだ。
この砦に勤務する兵士の大半はゴブリンやコボルトなのだが、そもそも霊的に塩に弱い体質を持つ彼等に人間と同レベルの塩分を使うことは禁物である。
特に直接塩に触れることは厳禁で、以前キシリアの店でポテトチップスを再現した際に大量の食中毒患者(?)が発生しかけたことがあるため、キシリアもその手の問題にはかなり気を使っていた。
その他の例を挙げるならば……ケルピーやアハ・イシュカといった水妖系の種族は唐辛子などの香辛料を始めとする【"熱"に分類される食材】を摂取すると体調を崩して発熱しかねないし、ハーピーやケットシーにチョコレートを与えれば麻薬と同じ症状を引き起こす。
つまり、種族によって好む食材や食べてはいけないものがあるのだ。
「ちなみに話は変わるが……」
「まだ何にかあるのか?」
話題が変わったことを確認すると、マルは指の先にまとめたソレを爪の先でピンと弾いた。
忌まわしき廃棄物は、鮮やかな放物線を描いて艶やかに磨かれた木製テーブルの脚に着陸する。
そしてその一連の仕草を横で見ていたゴブリンの青年兵士と侍女の眉間に、それぞれ一本づつの溝が刻まれた。
「もしもマルの注文した食事に森髭が混じっていて、知らずに食べたらお前はどうする?」
「そんなひでーことされたら、逆さ吊りにして蟹漁のエサにするニャ。 当たり前だニャ?」
なにを言っているのだと言わんばかりに、脚を組みなおしたマルは鼻に指を突っ込みなおしつつ、気だるげに返事を返す。
「そうか、では万が一がおきたときは心置きなく蟹のエサになってくれ。 あと、鼻をほじった指はちゃんと消毒しておくよ
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