黄巾の章
第11話 「忝(かたじけな)い……」
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しかも罠には糞尿が塗ってあり、至急水で洗わせた。
このような状況では麓への攻撃は自殺行為だ。
(せめて太陽が昇ってくれさえすれば……)
そうすれば視界は多少とはいえよくなる。
砦へ戻り、そちらの麓からから回り込むこともできるだろう。
向こうの砦ならばそう易々と落ちるものではない。
(朝になれば攻めている官軍に横槍を食らわせることもできる……今は我慢だ)
そう考えた馬元義は、将としては凡庸である。
だが、彼を責めることはできない。
情報が遮断された状況の軍が生き残る確率を求めるのならば、常に守勢になるからだ。
そうして夜明けになろうかという頃。
「しょ、将軍! 砦から逃げてきたものが……」
「なに!? どういうことだ!」
「そ、それが……砦が陥落したと」
「ば、ばかな……」
馬元義は愕然とした。
野晒しの陣と言うわけではない。
火攻めも利かない難攻不落の砦のはずである。
それこそ空から火矢を打ち込まれない限り、吹き降ろしの風で下からでは砦まで届かないはずだ。
「そ、その兵をここに!」
「はっ!」
馬元義の指示により兵が連れ出されてきた。
その身は炭にまみれ所々焦げた服を着ている。
あきらかに火に巻かれた様子だった。
「ど、どういうことだ! 火計などできる場所ではなかったはずだぞ!」
「そ、それが……裏切り者が出たんです」
「なんだと!」
「あの輜重隊……あいつらが中から火をつけて、門を開けました。あいつら官軍だったんです!」
「……おのれぇ! 奴か! 郷循か!」
「そ、それが……その郷循は、奇襲部隊として官の部隊に奇襲をかけたのですが、突然轟音がして奇襲部隊がいた場所に火柱が昇りまして」
「ぬ……? 郷循はどうした」
「わかりません。そのすぐ後に官軍が攻めて来ました。そして輜重隊が中から火をつけたと同じ頃にいつの間にか内部に官軍らしき部隊が……」
「……」
どういうことだ?
郷循は外に出ていて官軍を引き入れたのか?
だが、奴が外に出ていた間に部下が動いた……だが見張りはつけていたはずだ。
輜重隊はともかく、その部隊はどこから……?
普通に考えれば奴が裏切ったはず。
だが、輜重隊が勝手に動いたとしたら?
そもそも奴は敵なのか? 味方なのか?
一角の人物とは思っていたが、部下の統制が取れないということなのか?
それとも奴がすべて仕組んだと言うことなのか?
「……(ギリッ)」
「将軍……いかがしますか?」
「……砦は陥落したのだな?」
「……はい」
砦が落ちた。
ならば武器や糧食も失われたということだ。
もはやこれまでか……
「一刻後、日が昇り視界が多少見
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