第四十三話 病院にてその六
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「中田さんが戦う理由は」
「ご家族の為?」
「みたいだね。どうやら」
「ええ、そうね」
二人もまた話す。
「どうやらね」
「そういう理由だったの」
二人で話す。そしてだった。
二人はその場で中田の話を聞き続ける。中田は医師に対して暗い覚悟を決めた顔でこうも言ったのだった。
「やるしかないんだったらな」
「お金のお話ですか?」
「あ、ああそうだよ」
ここで気付いて言葉を訂正した。
「お金のことは払い続けるからな」
「大変ですね。大学にも通われてるんですよね」
「学費も払ってるさ」
自分でそうしているというのだ。
「それに生活費とかもな」
「全部ご自身で、ですか」
「払ってるさ。犯罪もせずにな」
犯罪を犯していないことは事実だった。
「そうしてるよ」
「真面目に頑張っておられるんですね」
「頑張ってるにしても真面目じゃないさ」
それは否定した中田だった。
「俺はな」
「真面目じゃないですか?」
「ああ、俺は不真面目さ」
それは笑ってそうだと言った。
「そういう奴なんだよ」
「そうですかね。自分で不真面目と言う方は」
「真面目だっていうんだな」
「はい、私の見立てですが」
「だといいがね。まあ俺はやっていくからな」
今度は自分自身に言った。隠したうえで。
「そうするさ」
「頑張って下さいね」
「ああ、そうしていくな」
こうした話をしていた。やがて医師は中田に笑顔で一礼してから彼の前を後にした。そこで上城と樹里にすれ違った。
その二人に気付いて医師は笑顔で言った。
「お茶ですか」
「あっ、ちょっと今から」
「飲もうかなって思ってたんですけれど」
「それならどうぞ」
笑顔で微笑む医師だった。そうしてだった。
医師は屋上から去った。後には二人と彼だけが残った。
中田も二人に気付いてこう言った。
「聞かれたかな」
「すいません、まさかここにおられるなんて」
「思いませんでした」
「偶然って怖いね」
中田は己の口の左端を歪めさせて述べた。
「多分たまたま病院に来てだよな」
「はい、それでここでお茶を飲もうと思ったら」
「お聞きするつもりはありませんでした」
「それはわかるさ」
上城と樹里が盗み聞きする様な人間ではないことはだというのだ。84
「君達はそうした人間じゃないさ」
「有り難うございます」
「お礼はいいさ。とにかくな」
中田に対していつもの気さくな顔で言う。
「話は聞いたよな」
「はい」
「申し訳ないです」
上城も樹里もこう答える。
「ご家族が、ですか」
「そうして」
「ああ、事故に遭ってな」
中田はバツは悪そうだがそれでもいつもの気さくな笑顔になってそのうえで上城にも樹里にもこう言った。
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