第二十六話 江田島へその十三
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「周り海だし雨も少ないっていうしな」
「気候もあっさりしててね」
「気持ちよく勉強が出来るからかね」
「そうかも知れないわね」
二人でこう話す、だが。
里香は向こう側に見えてきているその江田島を見つつこう言った。
「それがね」
「それがって?」
「江田島って島だからね」
「何か嫌な予感してきたけれど」
「まさか」
「そう、逃げにくいから」
島は隔離された世界だ、それならだった。
「訓練や教育が厳しくて逃げ出そうと思っても逃げにくい場所だからかも知れないわね」
「泳いで逃げるとかはどうだよ」
美優は海なら泳げばいいということからこう言った、右手の人差し指を立たせて言う。
「泳いで行けない程開いてないだろ」
「瀬戸内海って鮫fがいるわよね」
「それかよ」
「シュモクザメね」
英語名をハンマーヘッドシャークという。文字通りトンカチに似た形の頭をしており目はそれぞれの出っ張りの先にある。視界が広くなるからだ。
「それがいるから」
「あれって人食うぜ」
美優が言う。
「三メートルとか四メートルになってな」
「そう、だからね」
「泳いだらまずいな」
「食べられるからね」
文字通りそうなってしまう、夜は特にだ。鮫は夜行性である。
「だから危ないから」
「そうだよな、やっぱり」
「泳いで行けないから」
「ボートを使うのもな」
「学校のものは国のものだから」
特に戦前はである。
「使えないわよ」
「それもかよ」
「特に、兵学校のものだとね」
言うまでもなく国家のものの中でもとりわけ重要なものとみなされる、そしてそれは戦前ではこうなるのだった。
「天皇陛下のものになるから」
「陛下かよ」
「そう、銃は菊の御紋があったから」
即ち陛下からの預かりものだったのだ、戦前の銃は。
「ボートにしてもね」
「逃げるのに使ってもなんだな」
「下手に逃げるより問題になるから」
だから使えなかったというのだ。
「それで逃げるとしたらね」
「泳ぐしかなかったんだな」
鮫がうようよいるこの海をというのだ。
「そうか」
「それで泳いで岸に着けても連絡がいっていて」
その兵学校からだ。
「憲兵が待っていて捕まるから」
「凄い逃げにくい場所だったんだな」
「刑務所みたいでしょ」
「昔アメリカかどっかにあった島の刑務所か?」
アメリカのアルカトラズ刑務所だ、実際に島にありそこからの脱走は事実上不可能とさえ言われていた。
「そんな感じか」
「実際にそうだったのよ」
「刑務所かよ、兵学校は」
「訓練と教育が凄く厳しかったから」
このこととその島にあることから言われた呼び名は。
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