第百二十三話 拝領その九
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「ここまで匂い立ってくるのう」
「はい」
「しかも見事じゃ」
匂いだけではないというのだ。
「この形はな」
「武骨な様でそれでいて」
「うむ、美麗じゃ」
そうであるというのだ。
「これはな。それではじゃ」
「さすれば」
信行が応える。
「この木を皆に」
「うむ、それではじゃ」
信長も信行のその言葉に応えてだった。
僧侶から大事そうに持たれていた高木を受け取った、そのうえで。
その香木を盆で持ち掲げて見せて家臣や足軽達に見せた、そうしてこう高らかに言ったのである。
「どうじゃ、これがじゃ」
「あの幻の蘭奢待」
「それがでございますか」
「さあ、よく見よ」
再び一同に告げる。
「この木をな」
「勿体のうございますな」
唸る様に言ったのは石田だった。
「この目でこれだけのものを見るとは」
「ははは、遠慮はいらんぞ」
「左様でありますか」
「ではこれを一片ずつ二片拝領する」
そうしてだというのだ。
「一片は帝に献上し
「そしてですね」
「もう一片は」
「わしが受け取らせてもらう」
これまでの話通りそうするというのだ。
「二片切り取ったらそれでじゃ」
「蘭奢待はお返ししますか」
「そのうえで」
「それでよい」
少しずつばかり切り取ればだというのだ。
「後はじゃ」
「はい、お返ししましょう」
信行が兄に告げる。
「切り取られるのは兄上がご自身でされますか」
「わしがすべきであろうな」
自分が言ったからこそだというのだ。
「やはりな」
「では」
「うむ、今から切り取ろう」
信長は腰の脇差を取り出した、そのうえで。
実際に蘭奢待から一片ずつ二つ切り取ってそうしてだった。
袋に一つずつ丁寧に入れた、そうしてから待っていた東大寺の僧侶達に対して丁寧な調子でこう告げた。
「この度のことかたじけない」
「あっ、もうですか」
「もうお返しされるのですか」
「ことは済んだ」
拝領した、だからだというのだ。
「これでよい」
「ではこれで」
「我等に」
「後は大切に守ってくれ。ではじゃ」
信長はすぐに香木を返しそのうえでだった。
東大寺の僧侶達に礼を述べ多額の謝礼を布施として渡した、そのうえで意気揚々と岐阜に帰るのだった。
岐阜への帰り道で信長はこんなことも言った。
「さて、ではじゃ」
「ではとは」
「帰り道に何が」
「伊勢に参ろうか」
好奇心を出しての言葉だった。
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