第二十七話 教会の赤マントその七
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「それで乃木大将じゃがな」
「立派な軍人だったんですね」
「つまりは」
「そうじゃ、間違っても武器を持たぬ者、女子供に剣を抜くことはなかった」
「武士みたいですけれど」
「っていうか武士道ですか?」
「ああ、そもそも武士の家の人じゃぞ」
長州藩出身だ、伊藤博文や山縣有朋と同郷にあたる。それが為に引き立てを受けて世に出たのである。
「戦前の日本軍自体が武士道を強く意識しておったがな」
「武士、ですか」
「明治でも」
「戦前までそうじゃった」
昭和においてもだったというのだ。
「当時の軍人は文武両道で武道だけでなく学問もしておった」
「そこも武士みたいですね」
「学問もって」
「だから教養も凄かった。乃木大将もや」
「教養があったんですか」
「それもかなり」
「漢詩を作りかなりの詩人じゃった」
優れた詩も残している。その他の学問にも造形が深かったがこれは伊藤や山縣、そして戦前の軍人達も同じだ。
「相当な教養があったな」
「博士よりもですか?」
聖花は博士を見て言った。
「確か古典もよく御存知ですよね」
「高校の授業に出る程度の古典は全て読んでおるぞ」
実際にそうだというのだ。
「それも原文でな」
「源氏物語もですか?」
「読んだぞ」
古典の中で最も難解な文章でありしかも話は長く登場人物もかなり多い。しかもその登場人物が長いあいだ出なかったと思えば忘れた頃に出て来る。
源氏物語は恋愛大河小説と言っていい、だがそれをというのだ。
「全てな。現代語訳もな」
「あれもですか」
「平家物語や太平記もな」
それもだった。
「大鏡に徒然草、枕草子も好きじゃな」
「本当に何でも読んでるんですね」
「古典までって」
「中国のものも読んでおるぞ」
博士の若い頃では清である。この頃から生きているのだ。
「そちらもな」
「じゃあ論語とか孟子も」
「史記もですか」
「あらかた読んだわ」
実際にそうだというのだ。
「老子、荘子や孫子もな」
「何か本当に色々読んでおられるんですね」
「中国のものもって」
「古代ローマのものもあるぞ」
西洋のものもだった。
「エッダも原文でな」
「北欧神話もですか」
「そちらも」
「マハーバーラタにリグ=ヴェーダもじゃ」
今度はインドだった。
「そういったものも原文で読んでおるぞ」
「それって滅茶苦茶凄くないですか?」
「原文って」
「古代サンスリット語とかでな」
普通の日本人はおろか今のインド人もあまり読めるものではない、だがこの博士は学識においても普通ではないのだ。
「読んでおる」
「ううん、凄いですね」
「普通ないですよ」
「ほっほっほ、語学にはこつがあってな」
学ぶにあたってだというのだ。
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