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くらいくらい電子の森に・・・(誰も死ななかった編)
終章
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酒の面を、ぼうっと眺める。難しい話はここまでなんて言われても、急に切り替えられない。結局『あの件』は、僕の暴走で、何かが未然に防がれた…らしい。
でもそれと引き換えに、肝心要の『何か』が、水面下に潜ってしまったような…とてもすっきりしない、厭な予感がする。
「み、見つけたっ!!」
耳慣れた声に、思考を破られた。僕は弾かれたように振り返る。

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「柚木っ…!!」


僕の斜め後ろに、瞳いっぱいに涙を溜めた柚木が、肩をぷるぷるさせて佇んでいた。


「……ツイッターでっ…そろそろ、実家っていうから…サークル名簿で住所調べて、先回りしてっビックリさせようと思ってっ……」
「いや、ビックリだよ」
君ほどの『逸材』が南の果ての未踏の地で、迷わず僕の実家を探し当てられると思ってたこと自体がビックリだよ……。
「駅までは空港直通バスで来れたけどっ…なんか賑やかな場所に出ちゃうし、姶良のケータイに繋がらないしっ…またメール届かないしっ」
徐々に目が潤んできて、涙がぼろりとこぼれた。…まじか。とうとう、着信まで繋がらなくなったか。ぼろぼろ涙をこぼす柚木を見ていると、ふいにビアンキに軽い不快感が湧いた。…やりすぎだ。あとで叱っておこう。
「駅の方向も分からなくて、どうしよ、もう関東に帰れないのかなーって思ってふらふらしてたらっ…ボロいランドナー停めてあるの見つけてっ…」
奇跡かっ
「わ、分かった、とりあえず落ち着いて…ぼんじり食べる?」
「…いい。さっき地鶏のお店で食べた…」
食べたんかいっ!!
「って、あれっ!?そっちのひと…」
ぎくっ。覚えてたか…!?
「お、お父様!?あ、あの私、同じサークルの柚木、鈴香と申します!えっと、趣味はお料理です、父は会社員、母は喫茶店を経営してます♪」
柚木が涙をごしごし拭って、もじもじ身繕いしながら1オクターブ高い声を出した。烏崎が、がくっと肩を落とした。
「俺、そんな年に見えるのか…」
「柚木、違う。地元の知人だ」
「あ、なんだ、そか。と、とにかく助かった〜!」
柚木が背中にばふん、と頭を乗せた。会えた〜、じゃなく助かった〜、か。毎日がスリル満点だな君は。……隣から、舌打ちが聞こえてきた。
「なーにがネタキャラだ。…ベタ惚れじゃねぇか」
「そ、そんなっ……」
只でさえ、酔った頬に更に血が昇った。
「行ってこい少年。おじさんなんか放っておけ。いい時代は短いぜ」
黒じょかを持ち上げ、手酌で猪口を満たして呷り、ため息をつく。手馴れていた。こっちに来てからずっと、こんな風に独りで酒を呷っていたんだろうか。
「……お前は、『こっち側』に来るんじゃねぇぞ」
そう低い声で呟いて、また猪口を満たした。
「あの、今日は、ありがとうございました」
素直に、そ
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