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くらいくらい電子の森に・・・(誰も死ななかった編)
終章
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「ああ。大丈夫だったみたいっすよ。僕もあんまり見舞いに行ってないけど」

だって、怯えられるから。

杉野の病室には、月に2回くらいのスパンで通っている。紺野さんに拝み倒されたからだ。あいつには、同じ年くらいの友達が必要だとか言われて。
でも会うたびに正座され、おどおどと視線を泳がせる。明らかに、僕に対して苦手意識を持っているのだ。という話をした。
「ははは…仕方ねぇなそりゃ。俺だって怖かったもん。…おーう、『魔王』燗つけて。黒じょかで」
「だって腹立つでしょ普通!」
「なんか、わかる」
僕らは、初めて2人で声を上げて笑った。
「あの時は顔が浮腫んでて分からなかったけど…彼は美形ですねぇ…」
ため息混じりに呟く。黒じょかの表面に映りこむ、僕の平凡な顔立ち…。
「柚木は毎回、見舞いに行くのがちょっと楽しみみたいなんですよねぇ…」
いかん。つい、愚痴が出た。酒が変なほうに入っている。
「あのかわいこちゃんか!なに、てめぇやっぱりあれから付き合ってるのか!?」
おっさんが怒声の混じった太い声で凄む。僕は、弱々しく首を振る。
たしかにあれから、すごく絡まれる。昼食も毎日のように一緒に行くようになった。サークル内では、付き合っていると思っている奴もいるみたいだ。でも。
「あれは言ってみれば『方言男子フェチ』です。……方言が好きなんですよ。僕がどうとかじゃなくて」
「ラッキーじゃねーか、方言好きなんだろ」
「僕が求めてるのはそういうフェチっぽい好かれ方じゃなくて、こう…想いが錯綜して、時にはすれ違ったり、少し歩み寄ったりしてそのうち…ってかんじの」
「なーに贅沢言ってんだ。要は今、他の奴より有利なんだろ?そのままゴリ押せよ!」
と、バンバン背中を叩かれる。
「だめですよ。ネタキャラにされただけって感じですもん。…九州男児なんて、ネタなんですよ…」
「大丈夫だ、フェチとかじゃねぇよ」
また背中をバンバン叩く。痛い。痛いってばやめてよ痛い。
「何で、言い切れるんです」
「あれ結構、凄かったぜ」
「……蒸し返さないでくださいよ」
「あの啖呵聞いて、惚れない女はいねぇよ!あはははは大丈夫、大丈夫っ!!」
「だから何で言い切れるんですか…」
烏崎は、ひとしきりゲラゲラ笑った後、グラスに残った焼酎を呷り、ふぅ、と息をついた。そして軽く指を組んで、顎を乗せた。
「……うまくいくと、いいな」
「あ……はぁ……どうも……」
そのあと暫く、烏崎も僕も、あまり話をしなかった。僕は一気にテーブルに届いた肴を片付けるのに忙しくなり、烏崎は何やら、物思いにふけり始めてしまった。

烏崎は、結構いい人なのかもしれない。などと、酔った頭で考えていた。

絡み酒だしひがみっぽいし寂しがりで馬鹿だが、いい人だ。否、あの件に関わっ
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