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くらいくらい電子の森に・・・(誰も死ななかった編)
第五章
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見した。
『宮沢賢治――春と修羅――』
――これも、駄目だ…話をふくらませる自信がない……
「…宮沢賢治、好きなのかい?」
――げっ…視線の先を読んで食いついてきたよこの文学青年は!
「いやその…あれですよね!…クラムボンがかぷかぷいったりする…その…」
「…やまなしの、話だよね…教科書、かな」
「えぇ…その…教科書で…ははは…」
「……そうだよね」
「……はぁ」
「……」
「……」
たっ……助けて……紺野さん助けて! 直ちにここに乱入して、女子が聞いたら想像妊娠しそうな猥談を一発かまして僕をここから連れ出して!!
「……ごめんね、僕、こういうの苦手で……」
「こういうの…」
「知らない人と二人きりで、訳もわからず監禁されるの…とか」
「そんなん、僕だって苦手ですよ……」
「あの…ご主人さま」
なんかお互いあきらめモードになってきたあたりで、ビアンキが割り込んできた。ちょっと救われたような気分でディスプレイに向き直る。
「そ、そうだビアンキ!そういえばさっきのMOGMOGはどうなった!?」
「あの子は…さっき急にオフラインになっちゃいました…あの、ご主人さま」
「うん」
「心細い…です…。もう少し、そばに来てくれますか?」
不安そうな顔で甘えてくるビアンキが可愛くて思わずニヤけかけた。でも、杉野氏の表情がふいに曇るのを視界の端にとらえてしまい、ぐっと口元をひきしめる。
「姶良君…オフラインになったMOGMOGって」
「…紺野さんに調査を頼まれていたんです。ひょっとして、杉野さんの…ですか」
「多分ね…」
そう言って、ぎりっと歯をくいしばった。
「あいつら…また性懲りもなく、リンネに…」
「リンネって名前なんだ」
「うん。…リンネは今、拷問に遭ってるんだ。沢山のウイルスに侵食されて…あんなに苦しんで…僕が…紺野を裏切れないから」
本当に悔しそうに、歯噛みしたまま俯いた。
「ごめんね、リンネ…」
――純粋な人なんだ、と思った。純粋だから、いいかんじの所で現実と折り合いをつけられない。それでこんな、のっぴきならない場所に辿り着いてしまう。拉致された経緯は聞いたけど、僕だったら喜んで話に乗る振りをして油断させて逃げただろう。…嗚咽を漏らし始めた杉野氏の背を撫でてやるのが、僕に出来る精一杯だった。
「…ビアンキっていうんだ、君の子。可愛いね」
少し落ち着きを取り戻した杉野氏が、まだ腫れている目を上げた。可愛い、というキーワードに反応して、ビアンキが少しもじもじし始める。
「うん…好きな自転車からとった」
「自転車かぁ…もう10年くらい乗ってないな」
杉野氏は憧れを湛えた視線を僕に向けてきた。そんな目を男から向けられるのは初めてなので(まぁ…女の子からもないわけだけど)ど
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