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くらいくらい電子の森に・・・(誰も死ななかった編)
第五章
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」
ゆっくりと目を開ける。視界に飛び込んできたのは、殺風景な打ち放しの壁と、相変わらず不安そうにディスプレイに貼りつくビアンキ。
視線を右に移すと、小柄な男がうずくまっているのが見えた。不自然に土気色をした肌と、腫れぼったい目に、どこか不健康なものを感じる。
「――あんた、誰だ」
男は力なく笑うと、呟くように言った。
「杉野、弦。…もう一週間近く、ここに閉じ込められてる」
「ってことは…あんたが、紺野さんが言ってた、行方不明の腎臓病患者ですか?」
「紺野!?」
杉野氏の腫れぼったい目が、一瞬大きく見開かれた。
「紺野の知り合い?」
「僕は姶良壱樹。紺野さんとは1週間ばかり前に知り合ったばかりです。…だから全然分からないんですけど、これは一体どういう状況ですか?」
「知っている限りのことしか、話せないけど――」
そう前置きして、杉野氏は話し始めた。
公園で散歩中、見知らぬ男に声を掛けられたこと。どうやら、紺野の仕事の関係者らしいこと。…そして、彼らが紺野に敵対する立場で、紺野が自分にくれたMOGMOGの情報を欲しがっているらしいこと。
「――僕は断ったんだ…紺野は友達だから。そしたらあいつら、僕を車の中に引きずり込んでさ…この部屋から、出してもらえないんだ」
そう言って目を伏せた。意外と睫毛が長いな…などと、どうでもいい感想が頭をよぎる。年は多分、僕とそんなに変わらないくらいなんだろう。なのに、なんと言うか…この人は不自然なくらい、世ズレしていない。酒も煙草もやったことなさそうだ。そしてたまに、口調が子供っぽくなる。あまり他人と会話することに慣れていないような…。
「――なに、見てるの?」
「いや…具合、悪そうだなって…」
「うん。…僕、死にかけてるんだ」
力なく微笑んだ。
「…透析、ですよね」
馬鹿なことを言ったかな、と一瞬不安を覚えたが、彼はこっくりと一回頷いて笑った。
「でも死ぬ前に、あいつら以外の人間に逢えて、よかったよ」
「そんな…」
そんな重い話をされても…。この密室に立ち込める重苦しい死の気配に、僕は正直辟易していた。何か、この空気をぱっと明るくチェンジするような、いい会話の切り口はないものか…でもこの人、酒も煙草もやらなそうだし…なんか浮世離れの匂いがするし…
「あの…音楽とか、どういうのが好きなんですか?」
「…ブラームス、好きかな」
「……はぁ……いいっすね……」
――誰だよブラームスって
…いや、何となく聞き覚えがある。多分僕が中学時代に使ってた『音楽』の教科書で落書きまみれになっているおっさんのことだ。
…「落書きし甲斐のある爺ぃですね」くらいしか言うこと思いつかない。他になにか会話の切り口はないかと部屋中をきょろきょろ見回すと、机の上に本が一冊置いてあるのを発
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