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くらいくらい電子の森に・・・(誰も死ななかった編)
第三章 (1)
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ここに入学してまだ日が浅い桜の頃。

サークルのチラシ片手に新入生を追い回す上級生の群れを縫って、ふらふらと歩いていた。新入生歓迎コンパへの参加を約束させられたり、時には強引なサークルの追撃をかわしたりしながら、僕なりにサークルを吟味していた。
これまでの人生、なんとなくインドア系の団体に吸収されがちだった僕は、一念発起して東京に出てきて、大きな野望を抱いていたのだ。僕自身を変えるためにも、

―――アウトドア系の、ちょっとおしゃれなサークルに入りたい。

…テニスや乗馬なんか露骨におしゃれだけど、そんな高級な集いに僕が紛れ込んだりしたら、僕のそこはかとないダサさが悪目立ちして、周りのセレブな人々に「あら、なに、この負のオーラ」「まぁ、本当ですわね、何処からともなく負のオーラが…」とか囁かれて、一月もした頃には何となく遠巻きにされて、さらに一層強い負のオーラを身にまとう羽目になりかねない。
旅行サークルなんかは比較的、懐が深そうだけど、きっと金が続かない…。
ひとまず勧誘地帯を抜け出し、桜の下に設えられたベンチに腰をおろす。そして散々押し付けられたチラシを読むでもなく、ただ漫然と眺めていた。無造作に広げられたチラシの束に、そろそろ散り始めた桜の花びらがぽつり、ぽつりと舞い落ちてきた。

―――ピンとこない

この一言に尽きた。
だいたい僕の選定条件が悪い。おしゃれだのアウトドアだの、金が掛からなくてちょっと知的だの。そんなあやふやな条件でどんどん選択の幅を狭めていけば、しまいにゃ「野外百人一首同好会」とか、アウトドアだかアバンギャルドだか分からない珍妙なサークルに入ってしまい、冬の寒波にうち震えながら、木枯らしに舞い散るカルタを必死の形相で追いかけるような羽目になりかねない。

…急に、全部面倒になってチラシから顔をあげ、散り初めの桜を見上げた。花散らしの風がさあっ…と頬を撫で、周囲を桜色に染めていく。こういうの、なんていうんだっけ。…そうそう、桜霞。
散り初めの桜が好きだ。薄い桜色の花弁を含んだ風は、世間を曖昧な霞に閉じ込めて、僕からやんわり遠ざけてくれる。

…変わりたいなんて気張る必要、ないじゃないか。
今までどおり、やんわりと世間と距離をおきながら、ただ潮目に沿って流れていこう……ふいにそんな考えが浮かんできて、ふっと目を細めたその刹那


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桜霞を切り裂いて、空色の自転車が駆け抜けた。

はっとした。
目の前を横切った瞬間の、彼女の横顔を今でも鮮烈に覚えている。
凛とした、迷いのない横顔。そして高校の頃、雑誌で見たことがある憧れの自転車『ビアンキ』。女学生らしい軽快なペダルさばきを見せる、細くて白い足首。…正直、綺麗だけど気が強そうだし、街中で見かけたとしたら全
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