サトリ妖怪と破戒僧
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――何故、こんなことになったのだろう
命蓮寺と呼ばれる寺の一室の中、私、古明地さとりはそう思った。
時刻は牛の参り。草木も眠り虫の音さ眠りの底につこかという闇に閉ざされた刻。
そんな時間だというのに僅かな明かりで灯された部屋の中には住人達。皆、この寺の妖怪僧だ。床に散らばっているのは日本酒をはじめとした酒瓶の数々。寺の戒律はどこに行ったのだろうか一体。
はあ、と心の中で溜息をつく。悟り妖怪である私にはここの者たちの心が読める。戒律を特に気にかけていないから非常にあれだ。遠くの別室に篭り今日一晩中教を読んでいる信徒の方がよっぽど真面目だ。
そんな事を考えていると背中にドシンと衝撃が走る。
「お〜いどうした? 全然飲んでないぞ?(飲め飲めー)」
(お酒臭い……)
酒臭い息と共に飲んだくれのような思考が頭に入ってくる。村紗、という船幽霊の妖怪だ。セーラー服を着た少女は顔を真っ赤にし、私の背中にのしかかる。
「何か今日は全然飲んでないな〜、私の酒が飲めないのか?ええ、こいしよ」
そう、今私は古明地さとりではなく、妹の古明地こいしとしてここにいるのだ。
少し前から妹がこの妖怪寺である命蓮寺に時たま通うようになった。宗教寺でもあるここで妹がどんな扱いをされているか気になった。
さとり妖怪、というのは忌み嫌われている種族だ。妹は第三の目を閉ざし心は読めなくなったが、相手には分からない。さとり妖怪というだけで迫害を受ける可能性もある。寺の噂は聞いていたし、トップは妖怪に優しいということも聞いていた。けれど下の者たちまでそうかは分からない。そもそも表の妖怪にさえ嫌われ地下に追いやられたさとり妖怪。それが同等に扱われる保証もない。
本来なら妹のこいしの心を読んでそれで判断すればいい。だが第三の目を閉じ、無意識を操れるこいしの心は私でさえ読むことが出来ない。ならばと、実際に自分の目で確かめることにした。こいしの髪の色のウィッグをかぶり、こいしから借りた服を着て、心の目にも細工をし、口調も変える。こいしにも話を通し(非常に面白そうにしていた)命蓮寺に潜り込んだのだ。
無意識に潜り込み他からの意識から逃れるこいし。その姿が見えるというのは寺の者たちには不思議がられたが「気分」だと答えたら納得された。気ままで姉である私からも何を考えているかわからない妹。それは周りからすれば一層だったようだ。
寺の者たちの思考を読んだ結果、特に問題はなかった。確かに内心恐怖を抱えていたものはいたが、それを表に出すような者はいなかったし、そもそも恐怖自体抱かないものいた。信仰、というのは大きな力だ。いや、この場合はここのトップである僧、聖白蓮のちからであるというべきだろうか。
問題があるとすれば私の心だ
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