黄巾の章
第10話 「お、おの……れぇ!」
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そう言いつつ、私は穴の開いた方角を見ている。
郷循……あそこに彼がいたとしたら、おそらくはもう生きてはいまい。
(すまない……)
悔恨の念に苛まれながら、ぎりっと歯を鳴らす。
(仇はとります!)
心に誓い、迫ってくるたいまつの火を憎々しげに睨む。
「奇襲部隊の仇をとれ! 官軍を一人も生かして返すな!」
私が叫んだときだった。
「ふ、副官!」
「!?」
「は、反乱です!」
「な……!?」
兵の言葉に後方の砦の内部を振り返る。
砦の内部のあちこちから、火の手が上がり始めているのが見えた。
「どういう……」
「あの輜重隊です! あいつら、あの音がしたと思ったら周辺に火をつけだして……」
「……」
まさか、郷順が死んだ報復?
いや……それはない。知るのが早すぎる。
なら……やはり間者だったと。
「お、おの……れぇ!」
「敵だあ!」
「!?」
櫓の下から、別の兵の声がする。
そこには――
「にゃーはっはっはっはっぁ! 鈴々、参上なのだ!」
「民を苦しめる黄巾の餓鬼ども! この関雲長が黄泉路への案内役をしてやる。おとなしく冥府へと還るがいい!」
黒髪の女と茶髪のちんちくりんに率いられた九百ほどの兵が、砦内を荒らしまわっていた。
「ばかな……どこから入られたのだ……」
「わかりません! 突然砦の中から現れ……ギャッ!」
その兵は、報告の途中で流れてきた矢に射殺された。
矢が流れてきたのは、外でなくやはり砦内……あれは、輜重隊のやつか!
「ぐ……お、応戦――」
「も、門が開けられています!」
「な――」
砦の門が、輜重隊の数人により開かれていく。
間髪いれずに入り込んでくる官軍の兵。
だ、だめだ……もう。
「黄巾ども、観念せぇ! うちは董卓軍の張文遠や! 帝の勅命により、あんたらを討伐する! 死にたくなければおとなしゅう降参せぇ! せぇへんのやったら皆殺しや!」
官軍の女が叫んでいる。
董卓……董卓軍、そう言ったか。
全部謀られていたということか……
……ぉのれ、おのれ、おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれ、オノレェェェェェェェッ!
「ふ、副官、どうしま……」
「俺は逃げる……お前らは好きにしろ」
「そ、そんな!」
近くにいた兵のことなど放り出して、櫓から下りる。
頭に巻いていた黄巾を剥ぎ取り、鎧も捨てて身軽になると、裏へと走り出した。
(俺は喰うためだけに黄巾に入ったんだ。後のことなど知ったことか)
砦の裏手には、外部からの侵入を防ぐ柵が立ち並んでいる。
だが、俺はいざと言うときの逃げ出す算段
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