隅々に眠る
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んだけどな」
「しかし、不思議なものですな。喪失感と共に奇妙な鍵を拾ったと思ったら、あなたがたの話を聞いて、ここまで。運命とでも言いましょうか」
「どうでしょう。そのあたりは、僕らもよくわかっていないもので。ただ忘れ物というのは誰しもしているものですからね。あなたのように、偶然僕らが近くにいて、こうして思い出せることなんて本当に稀なんです」
「でしょうな。周囲が知っていることと自分が知っていることとにずれを感じるというのは、よくある話です。それがもしかしたら大事な大事な忘れ物の足がかりかもしれないのに、それすら忘れている」
「仕方ありませんよ。人間、何でも受け入れられるほど強くはないんですから」
ひょっとしたら、オレ達は何も受け入れられないのかもしれない。
そう思ってしまうほどにオレ達はとても弱くて、貧弱で脆弱で惰弱で。
おそろしいほどに弱々しい。
他人を見ていればそれがどんなに分かることか。
最も恐ろしいのが、他人からでなければそれが学べないことにあるのだけど。
「私をここまで導いてくれた友人が死に、きっと周囲は私を気にしたはずなのです。だけど私はどうして、彼のことをすっかりとなかったことしていた。今考えれば恐ろしいですよ。親や友人が、私の親友が死んだと知らせたはずなのに、それに対して私がどう返したかを考えると」
「記憶の修正って言います。そういうのは」
「修正?」
「ええ。忘れ物に合わせて、記憶を欠落させるんです。それが修正。周囲に軋轢が生じますが、それだって、知らなければ無かったということですからね」
「なんと……。では私も?」
「さあ? それはオブジェクトを、適応してみてから、あなたが思い出すことです。記憶の修正を無効化して、全部を知るんです。覚悟がいりますよ」
「ああ。なんたってあんたの親友はあんたのせいでくたばったのに、あんたは葬式にも、病院にも顔を出さず、知らず、聞かずの耳なし目なし状態で何十年も生きてきたってんだからな。あたしが親友なら恨むぜ。あんたをな。恨んで、呪う」
「おい分母!」
「あんだよ。間違ってないぜ」
「余計なお世話だって言ってるんだ。そんなの、この人なら全部分ってらっしゃるんだから」
「……ふふ。中々、はっきり言われると辛いものがありますね」
「どうもすみません。このバカが」
「彼には、それくらい直接的に罵ってくれた方が良かったと……。呪ってくれた方が、ありがたいです。それほどのことをしましたからね……。いや、してるんでしょうから」
高級そうに黒光りするテーブルに、カメラを置く。
レンズは割れていて、本体には汚れが目立っている。
「いいですか。これを適応すれば、あなたの記憶の修正は解かれます。ですが、適応しなければ、それはない。嫌な言い方をすれば、忘れ物から逃げる
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