隅々に眠る
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た挙句、カメラを取りに行かなくてもいいのに」
「アホかよ。てめえがあまりにもガキっぽすぎるから慌てて確認してんだ」
「本当? 姫希」
「きっと本当。葉のような小さい子が入るような施設じゃないからな、ここ。ましてやそいつが学長への来客を名乗れば、不審も不審だろ」
ここは大学だった。
地方都市に根付くことを第一に考えていて、研究内容や取り組みもそういったものが多いと、いつかに出会ったとき、そう説明していた気がする。
葉は眠っちゃうし、分母はトイレって言って一時間は戻ってこなかったな。
こいつらって、気遣うって心を知らないんだから。
それと、葉と分母のような世間知らずには、大学の学長と企業の社長とは違わないらしい。
頭が痛いよ。
分母はともかく、葉はモノを知らないといけないのに。
「すみません。お伺いしていた通りでした。どうぞ。学長室は総務課の上、三階にあります。案内を?」
「いいえ、大丈夫ですよ。どうも」
許可証を三人分もらい、首から下げたところで、自動ドアをくぐった。
「あれ、葉がいねえ」
「はあ?」
振り返ると、葉は警備員室の窓口によじ登っている。
懸垂をするにしては低すぎるし、彼女の今の可愛らしいワンピースはそもそも運動に向いていないだろう。
「あ、あのねえ!」
「何かな、お嬢ちゃん」
「それ! それをやめなさい! 私は立派なあの二人の同業者なの!」
「はあ? しかし――うっ!?」
「あ、おいこら! どうもすみません! 何やってんだ葉!」
「だって……」
「あははは! やってやった! いいぞ葉! 警備員のど頭に一発くれてやるなんて、お前も中々男気あるじゃねえか! あっはっはっは!」
「葉も分母も男じゃねえだろ!」
いじらしくよじ登った葉は、荒々しく警備員の頭を小さな拳で殴りつけたのだった。
普通ならここでつまみ出されていてもおかしくない。
子供扱いされて怒るようならまだ子供なんだと、常々言っているんだけどなあ。教育って難しい。
「さて、学長室はどこかな」
「案内いらねえって言ったくせに、姫希わかんねえのかよ」
「三人で迷ったほうがアミューズメントっぽくて楽しいだろ。特に葉には、こういう貴重な経験はしてほしいしさ」
「どうして?」
「お前が可愛いからだよ。葉」
「えへへ……」
はにかむ少女の手を握ってやった。
小さくて、すべすべしていた。
この少女には学がない。とある事情で義務教育もこなせていないからだ。
それでも彼女は生きていかなくてはいけないし、いつまでもこんな生活が続くとも思えない。続けていいとも、思ってない。
だからせめて、学校に行ってるやつの何倍もの貴重な経験をさせてやりたいと望むんだ。それはきっとオレの勝手な節介なんだろうけど。
「
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