第四章
[8]前話
「そして私を侮辱した者に決闘を挑み相討ちとなった」
「それは聞いていますが」
「それでこの顔ですか」
「陛下の為に」
「私はこの様な者だ」
自嘲、そして歯痒くさが篭もった言葉だった。
「その私に。忠誠を誓ってくれ命まで賭してくれたのだ」
「だからですか」
「陛下は」
「この者の死を見送ろう」
こう言ったのである。
「王として。この者の主として」
「左様ですか」
「そうされますか」
「誰にも何も言わせない」
絶対のものさえ含めてだ。王は言った。
「この者への侮辱も許しはしない」
「わかりました。それでは」
「我々は」
「このうえない愛情を込めて」
王は目を閉じている若者に告げた。
「そなたを見送ろう」
こう告げたのである。そうして若者を見送るのだった。
そしてそれからだ。王がいる荘重な式が行われるのだった。見送りの式が。
そして若者達はだ。それからもだった。王の為にだ。
命を捧げていった。彼等はまさに王の忠臣だった。
だがその彼等がだ。いなくなった時にだ。王は彼等についてだ。こう廷臣達に話したのである。
「では私もだ」
「陛下も?」
「陛下もといいますと」
「私も彼等の下に行こう」
こう話したのである。
「これからな」
「これからですか」
「そうされるのですか」
「そうだ。間も無くだ」
行くと言うのだ。己の為に死んだ者の下にだ。
そして即ちそれは何処か。廷臣達はすぐに察した。それで顔を曇らせて王に言うのだった。
「陛下、その様なことはです」
「不吉なことは仰るべきではありません」
「それは何としても」
「いや、そうなる」
だが、だった。王はだ。彼等にこう返すのだった。
「私の為に命を捧げた彼等の下に行く運命なのだ」
「それがですか」
「陛下の運命だと」
「そう仰るのですか」
「そうだ。それではだ」
それ故にだと述べてだ。王はだ。
それから暫くは孤独に過ごした。そして遂に。
刺客に襲われ深い傷を負った。最早死が近いことは明らかだった。
だが鮮血の中でだ。王は微笑み言うのだった。
「これで私も彼等の下に生ける」
そのことを期待する顔でだ。こう言ってだ。王は瞼を閉じたのである。
これがヴァロワ朝最後の王アンリ三世の最後だ。この王については今も様々なことが言われている。だがこの王にも命を捧げた者が多くいた。このことは紛れもない事実だったことは歴史にある通りだ。
剣客 完
2011・12・24
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