第三章
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「ちょっとね」
「おかしいわよね」
「あのさ。いいかな」
「どうしようかしら」
実里からだった。こう言ったのである。
「あの、女の子から言うけれど」
「いや、それはよくないから」
「じゃあ自由君から言うの?」
「そうさせてもらうよ」
こう言ってだった。彼からだった。
熱気に満ちた声でだ。実里に言った。
「お風呂入れよう」
「それから二人でね」
実里の家族が今家にいないことを心から感謝しながらだ。二人は一緒に風呂に入りだ。それからだった。
朝こっそりとだ。実里の家を周囲を警戒しつつ出てからだ。学校に向かう電車に乗って。二人は話し合った。
「あのさ。牡蠣ってさ」
「身体にいいのよね」
「それでもだよ」
朝の電車の席に二人並んで座りながら話している。電車の中には人が次第に増えていっている。
その中でだ。彼等は話すのだった。
「それでもあれはねえ」
「急にきたわね」
「あのさ。実は僕さ」
自由は言う。
「はじめてだったんだよね」
「あんなに激しくて?」
「そうだよ。はじめてだったんだよ」
「私もよ」
実里もこう言うのだった。
「実はね」
「はじめてだったんだ」
「そうだったのよ」
こうだ。赤く充血した目で言う。
「驚いた?」
「けれど最初の割にはさ」
「積極的だったって言いたいのね」
「だって。自分からだったじゃない」
昨夜のことははっきりと頭にも身体にも残っている。そうして自由は話すのだった。
「御風呂の時でもベッドの時でも」
「だって。身体が熱くて仕方がなかったから」
最早高校生の会話ではなかった。
「それは自由もでしょ?」
「そうだけれどね」
「本当に何ていうか」
どうかというのだ。実里も。
「自分でも驚いてるわよ」
「御互いにそうなんだね」
「そういうことね。それにしてもあの牡蠣って」
「うん、美味しかったけれどね」
「絶対に普通の牡蠣じゃないわね」
「間違いなくね」
こうだ。二人で昨夜のことを共に思い出しその中に浸りながら学校に向かう二人だった。そしてこのことから暫くしてだった。
渦中の牡蠣はミナミアフリカカキとして知られる様になった。養殖が容易で食べると以上に精力が出ることからバイアグラの様に扱われることになった。そしてそれが結果として日本の少子化問題を解決したのだから世の中わからない。実際に実里もだ。高校を卒業してすぐに自由と結婚することになった。お腹の中の子供と一緒に。
生牡蠣 完
2011・10・4
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