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消えたソウルフード
第五章
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「味だよ味」
「味なあ」
「そうさ。料理と酒のね」
「腕に随分と自信があるんだな」
 老婆の口調からだ。ブライアンはそのことを察した。
 そしてそのうえでだ。こう老婆に言うのだった。
「イギリス人よりは腕が立つみたいだな」
「イギリス?随分ランクが低いね」
「まあ冗談だと思ってくれ」
「本気だったらぶちのめしてるところだよ」
 幾ら何でもイギリス人と比較されてはだというのだ。老婆は歳の割に元気な声で言ってきた。
「もうそれだけでね」
「まあ冗談だから忘れてくれよ。それじゃあね」
「ああ、それならだな」
「帰ってくれるかい?夕方にまた来てくれよ」
「折角昼飯が食えると思ったんだけれどな」
 ブライアンは老婆に言われて残念そうに述べた。
「仕方ねえな。それじゃあ」
「ああ、じゃあね」
「けれどな」
 ブライアンは帰ろうとした。しかしだ。
 ここで老婆にだ。このことを尋ねたのである。
「で、この店の料理は何だよ」
「うちの店のかい?」
「ああ、それはどんなのなんだよ」
「あんたもよく知ってるやつだよ」
「俺が?」
「そっちのお姉さんもね」
 続いてだ。老婆はキャシーにも言ってきたのだった。
「よく知ってる筈だよ」
「俺達が知ってる料理」
「それは一体」
「あれっ、知らないのかい?」
 二人の怪訝な声にだ。老婆はだ。
 かえって自分がそうした顔になってだ。また二人に問い返した。
「黒人なのに」
「アフリカ系な」
 ブライアンは老婆の黒人という言葉は訂正させた。
「もう二十年はその呼び方になってるだろ」
「呼び方を変えても同じじゃないのかい?」
「違うさ。有色人種とかが問題じゃなくてな」
 何が大事なのかをだ。ブライアンは真面目な顔で老婆に話した。
「アメリカ人だってことだろ」
「だからアフリカ系って言うのかい」
「そうだよ」
 こう老婆に話すのだった。
「そこはちゃんとするからな」
「意外なところで真面目なんだね」
「で、俺達がアフリカ系だから何だってんだ?」
「そうよ。悪いけれどね」 
 ブライアンに続いてキャシーも怪訝な顔で老婆に問い返す。
「それだけじゃわからないわよ」
「やれやれ、本当に知らないんだね」
 老婆はあらためてこのことがわかった。二人が何も知らないことをだ。
 そしてだ。溜息と共に言うのだった。
「道理で最近あのメニューの人気がない筈だよ」
「だからどういうメニューなんだよ」
 眉を顰めさせてだ。ブライアンはまた老婆に尋ねた。
「それはな」
「じゃあその料理を見せてあげようかい?」
 半ば売り言葉に買い言葉でだ。老婆はだ。
 ブライアンとキャシーにだ。こう告げたのだった。
「こうなったらついでだよ。それを食べるかい?」

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