参ノ巻
文櫃
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「あー疲れたっ!」
佐々家に帰ってきたあたしは呻いて脇息に凭れかかった。
「それにしても、よくあれで収拾がついたものよね・・・」
ついつい呟きが漏れてしまう。
例の一件は、結局、収まるところに収まったのだった。
大衆注視の中、無我夢中だったとは言え我ながら恥ずかしいことを叫んだものだと思うけど、あたしと高彬が、その、ち、ちぎ・・・いえ、いい仲だとなれば、そもそも徳川と前田の絆を深めるためのあの証文も意味を成さない。そして佐々家を敵に回してまでわざわざ傷物である姫を奪い取るほど、徳川家は困ってはいない。あたしは本当に、高彬と夫婦になるしか、道はなくなったのである。
そしてもし、あたしが高彬と一緒にならないとなると、今度は亦柾と添い遂げなければならなくなる。
亦柾と高彬に板挟みにされて、二者択一。どちらかを選べと言われたら、そんなの、顔は良いけれど浮気者の亦柾より、顔はまぁ、いい男だし、妻はあたしひとりだと言ってくれる高彬を選ぶしか、ないじゃないのぉぉぉ!
浄土の蓮華座に御座す亡き母上。
二番目の、亡き優しい御義母上。
美しく聡明であった、亡き兄上。
浮気性で甲斐性もなくて一人娘も証文ひとつで売り飛ばしてしまう殺しても死ななそうな、父上。
兄上を失われて、毎日泣き暮らしていると思われるであろう、姉上様。
そして運命に弄ばれまくっている、かわいそうな、このあたし。
嗚呼!皆々様この先一体瑠螺蔚はどうなってしまうのでせうか。よよよ・・・。
ヤケになったあたしが悲劇の姫ぶりっこをしていると、横から高彬が呆れたように口を開いた。
「よくもそう、ころころと表情を変えられるものだね」
「ほっといてよ。進退極まってるんだから」
「進退極まるも何も・・・はぁ。瑠螺蔚さん、良い機会だからちゃんと確認しておきたいんだけど・・・」
「ん、なに」
「その前に、こっち向いて」
「向いてるじゃないの」
あたしはそっぽを向いたまま答えた。
「向いていないでしょう。もっとちゃんと」
「向いてるったら」
高彬は溜息をつくと、強引にあたしの身体に手をかけて、あたし達が正面から向き合うようにしてしまった。
「女の子の身体に急に触らないでよ!訴えるわよ」
「訴えるって、どこに」
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