参ノ巻
文櫃
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言ってくれるのは嬉しいの。ホントよ。やっぱね、嫌いだって言われるより好きって言われる方が嬉しい。照れるけど。
ただね、あたし思うんだ。高彬の好きって言うのは、恋愛の好きなのかなって。あたしと小さい時から一緒にいたから、ずっとあたしを探してくれるのが習慣みたいになっているから、これからもあたしと一緒にいなきゃって思ってるんじゃないのかなって。
もしそうなら・・・それは二人にとって決して幸せなことじゃないよね。
あたしはこのまま死ぬんだろう。動かせない身体。自分でわかる。多分、助からない。
高彬。
心配かけてごめん。苦しめてごめん。
ねぇ、だから高彬、もう義務みたいにあたしを探さなくて良いんだよ。
高彬・・・。
あんたはいい男よ。縁談だって、山ほど舞い込んでるの、あたし、知ってるんだからね。そしてそれを全部断ってるのも。
ごめん、高彬。幸せになって。とびきり綺麗で優しい人と。あたしはもう邪魔はしない。
そうよ、これがあたしの本音。高彬に求められるのは嬉しい。でもあたしは高彬を幸せにできるのかな。あたしと夫婦になって、高彬は幸せになれるのかな。高彬には守られて助けられて与えられる一方なのに。だから、多分・・・これで、良かった。
あたしは今日亦柾を選ぶべきだった。前田家のために。亦柾の言っていたことは、本当は正しいのだ。家のためにあたしたちがあり、あたしたちの意思など、そもそも問題ではないのだと。
死にたい訳じゃない。でも死んでも良いと思っている。それは、あの日から変わらずあたしの心の奥底で深く息を潜めている。生きると誓ってからも、ふとした拍子に顔を覗かせる。だからあたしは今、死にものぐるいで生きようと願ってはいないのかもしれない。
高彬、父上をお願いね。
不思議と痛みはなかった。焼け付くような苦しさと逃れようもない倦怠感があるだけ。
あ。
ふっと一瞬で力が抜けてゆく。感覚という感覚が遠ざかっていく。
光もなくなった世界で、聞こえるのは、幼い高彬の泣き声だけ。
お願い、泣かないで。
誰も、あたしのために悲しまないで。
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