参ノ巻
文櫃
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まった。
おかしい、色が、真っ赤だ。
ごぼり、ごぼりと変な音を出しながらあたしは血を吐く。
―・・・白湯・・・、毒・・・。
きっと飲み込んだ白湯も吐き出してしまっただろうに、血は止まらない。驚くほどの量の血を、だらだらとあたしは吐いていた。
こんな即効性で無味無臭で強い毒なんてあるの?
高彬、白湯を飲んではいけないと言おうとしたけれど、あたしが全て自分で叩き音していたことに気づいて安心する。どうやら、頭も回ってないみたいだ。
手も衣も畳も全てがあたしの血で濡れている。体中の血を吐き出そうとでもするかのように、あふれ出る血の塊を喉に詰め、あたしは咽せた。
ああ、これはー・・・助からないわ。
逃げられない死を前にした人間は皆そうなるのか、あたしはなぜか、とても冷静だった。
胸が熱い。
ああ、バカだったなぁ・・・。今更後悔してもしょうがないけれど、もうちょっと警戒するべきだった。あたしが飲んだから良いようなものの、これが高彬だったら、あたしは後悔してもしきれない。
呼吸が詰まる。背を撫でる感覚があって、あたしは薄く瞳を開けた。途端に、高彬の顔が視界に飛び込んでくる。
思わずあたしは状況も忘れて笑いそうになった。
・・・なによ、泣いてるじゃない。男のくせに・・・。
高彬は必死で何か叫んでいる。それがあたしには何故か聞こえない。声が聞きたくて、その唇に指を寄せようとしたら、高彬の手が被さり頬に強く押しつけられた。高彬の涙にあたしは触れる。
ねぇ・・・泣かないでよ高彬。
高彬に体調が悪そうな様子がないことにあたしは安堵する。良かった。酒の方には何も入ってなかったみたいだ。狙いはあたしってことだ。良かった。
目蓋が重い。身体が重い。感覚まで全て鈍り痺れ、地の底まで沈んでいくような暗い重さが、あたしを優しく掴み引く。
もう、眠りなさいよと誰かが言っている。
もう、いいじゃない、と。おまえの運命は、ここで尽きるのよ、と。もう十分生きたでしょう、と。
運命、なんて・・・。
「瑠螺蔚さーん、瑠螺蔚さーん」
高彬の泣き声が耳の奥で聞こえる。小さい高彬の声が。高彬はずっと、あたしを探して泣いていた。小さい時も、そして今も。
「瑠螺蔚さーん、どこー瑠螺蔚さーん」
からかっても何しても高彬はあたしについてきていた。ぐしゃぐしゃのみっともない顔で。
高彬、あんたがね、あたしを好きだって
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