参ノ巻
文櫃
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「さて、それはどうだろうね」
高彬は苦笑したようだった。なによ、それは。亦柾なんてなにをどう考えてもあたしのことからかって遊んでいるだけでしょう。
「瑠螺蔚さん・・・」
「失礼致します、高彬様、こちらにいらっしゃいますか」
高彬が優しくあたしの名を呼ぶ、その時外から控えめな声がした。
「えっ!?」
「え?」
あたしは部外者の声に驚き咄嗟に高彬を突き飛ばしてしまった。
「あ、ご、ごめん。わざとじゃないのよ、わざとじゃ。驚いて・・・ほら、誰かあんたになんか用みたいよ」
あたしは誤魔化すようにあわあわと言った。
「なあにーどうぞー」
そして動揺したまま、捲し立てるように勝手に返事をした。
「失礼します・・・」
からりと開いた障子の向こうに顔を出したのは侍女のようだった。その顔を見た高彬が、おやと言うように顔を上げた。
「見かけない顔だけどー・・・」
「は、はい。先月から、こちらで働かせて頂いております、雪と申します。あ、あの、尉高様から、あの、宵の話の抓みに一献でもと・・・」
「尉高義兄上が?憎い方だ」
高彬は嫌味なく笑った。尉高ってやつのこと悪く思ってないみたい。ふうん。誰だろ。とりあえず高彬に嫉妬しまくってる根性ねじ曲がった義兄どもの一人ではないらしい。
「義兄上が余計な気をまわして下さったようだから、ありがたく受け取ろう。そこに置いておいて」
「はい」
雪という侍女が盆から杯やら提子やら置いている間、あたしは高彬ににじり寄って聞いた。
「ねぇねぇ尉高、って誰」
「尉高義兄上?歳は僕と十ほど離れておられるが、素晴らしい方だよ。大局を見ることのできる器の大きな方だ。僕など足下にも遠く及ばない」
高彬は遠い星に手を伸ばすようにそう言った。へー。ほー。高彬がこう評すぐらいだから、相当な人間なんだろう。ふむ。佐々家もまだまだ捨てたもんじゃないって事ね。まぁそもそも高彬がいるから大丈夫だろうけど。
「あ、杯はひとつでいいわ」
「え、瑠螺蔚さん酒駄目だっけ?」
「あー・・・うん、飲めるのよ。飲めるんだけどー・・・。何でか知らないんだけどさ、あたし一度調子に乗って飲んで記憶ぶっ飛んで、起きたら兄上がもう絶対飲んじゃだめだー!って凄い勢いで」
「ふぅん」
「だからさ。あ、ねぇ、白湯はないの?それなら付き合うわよ」
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