参ノ巻
文櫃
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「鷹・・・織田三郎宗平、様!」
「瑠螺蔚さん・・・」
高彬の溜息は深くなる一方だ。あたしは本当のところ、高彬が今なにを言い出すのか気が気じゃなくてどうにか真面目なような、そうでないようなこの空気を誤魔化したい。・・・絶対に、高彬がこれから言うことは、恥ずかしいことに決まってる。だって高彬も、なんだか・・・緊張してるんだもの。それがわかって、あたしも緊張してしまう。
「瑠螺蔚さん」
高彬の声に懇願が混じってあたしはしぶしぶ高彬を見た。やっぱり高彬は緊張している。ぴんとはりつめたような表情は、なんだか、いつもより少し、男らしく見えなくもない、かもしれない。
そして高彬はあたしを見詰めたまま、口を開いた。
「改めて言う。僕は、この先どんなことがあっても、あなたに傍にいて欲しい。僕の、ただ一人のひとになって」
「・・・」
高彬の真剣さにあたしは声が出ない。
あたしが高彬と夫婦になるのはもう決定事項だ。それでもこうして聞いてくれるのは、高彬の優しさと・・・そして不安の表れなのかもしれない。多分、多分だけど、あたしが本気で嫌がれば高彬はきっと笑ってなかったことにしてくれる。例え誰になんと言われようと、高彬との婚姻の話も、なしにしてくれて、それできっと力の全てで徳川家からも守ってくれるだろう。高彬は、優しいから。優しい、から・・・。
目頭が熱くなり、見つめ合ったままの高彬がぼやける。
あたし、なんで・・・悲しい訳じゃ決してないのに、どんどん昂ぶる感情が瞳に集まり熱く、溢れ出しそう・・・。
その涙が零れるよりはやく、高彬の腕があたしを強くかき抱いた。
「・・・言って。はいと」
高彬のくぐもった声がする。あたしは高彬の肩に頬をつけたまま、閉じた目蓋を震えさせた。
「・・・はい」
高彬の腕の力が強まる。あたしの頬を涙がつたい流れて高彬の衣に落ちる。
「・・・もう撤回は聞かないよ」
「しないわよ、ばかね・・・」
なんだか泣いたのが恥ずかしくてあたしは照れ隠しに顔を伏せたまま笑った。
「あんたこそ、後悔するんじゃないわよ。悪いけど、こんなあたしを娶ろうなんて物好きな男、なかなかいないわよ?我ながら世間一般で言うおしとやかな姫にはほど遠いし・・・」
「瑠螺蔚さんは自分のことをもっとよく知るべきだね。僕は今さっきも、徳川家から奪い取ってきたばかりだと言うに」
「それは、『前田の姫』が欲しいからよ。あたし自身じゃあないわ」
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