暁 〜小説投稿サイト〜
おいでませ魍魎盒飯店
Episode 3 デリバリー始めました
テンチャークエスト
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霊木。

 ポメの脳裏に、"琥珀の棺"という単語がよぎる。
 同時に、後ろから大きな生き物が体を起こす音がした。

 そしてポメは恐る恐る背後を振り返り、自らの考えが真実に触れていたことを知る。

「こ、こんなの聞いてないニャー!」
 ポメを睨めつける視線は悪意ある緑の輝き。
 それは、明らかに邪眼系の理力を使用している証。

 虚空から現れ、ポメの体に次々と蒸着されてゆく琥珀が、接着剤のように彼の足を地面へと縫いとめる。
「や、やばいニャー!!」
 どんなにがんばっても、人間の10歳程度の体格と腕力でしかないケットシーの力では琥珀を砕くことも引きちぎることも出来ない。

 後にボメは、このテンチャーという生き物の祖先が、森に適応したバジリスクの末裔ですることを知る。
 そう、この魔物の持つ真の恐ろしさは、その理力――視線に触れた相手を琥珀の中に封じ込める能力であることを、彼はこの時点でまだ知らなかった。

「うにゃあぁぁぁぁぁ!!」
 絶望の声が響く中、テンチャーの丸太のような舌が、大地へと振り下ろされる。
 絶叫、地響き、周囲に撒き散らされる琥珀の破片。
 濛々と舞い上がる土埃の中を、ただ静寂だけが支配した。
 外敵の消失を確認するため、テンチャーが無言で爆心地に鼻先を近づける……
 だが、
「ほふぅぅぅっ!?」
 その瞬間、どこからか飛んできた鋭い木の枝が、テンチャーの左の目にも突きたてられた。

「ほふっ、ほふっ!!」
 両目の視力を奪われ、再び地面をのた打ち回るテンチャー。
 その背後の木の陰から、人間の子供ぐらいの影がそろりと顔をのぞかせる。
 
「あぶなかったニャー」
 木陰から現れたのは、たった今粉々に砕かれたはずのポメだった。

 ――怪盗系の理力の一つ"空蝉の術"。
 周囲にある自分と同体積の物質を、身代わりとして瞬時に自分と入れ替えるという荒業である。
 一見して便利なように見える技だが、周囲の時空を歪めてしまうという特質のために頻発するとどんどん周囲の空間がゆがみ始め、さらに制御を誤ると暴走して術者を存在ごとロストさせるという危険な秘術でもある。
 当然ながら多用は厳禁。
 間違えれば、髪の毛一本残らない。

「ほふぅぅぅっ」
 苛ただしげな声を上げながら、両目を潰されたテンチャーが再びゆっくりと体を起こす。
 その魔眼の力こそ失われたが、その全身からは未だ闘志がみなぎっていた。

「ほふっ!!」
 相変わらず気の抜けた声を上げ、その優れた嗅覚を頼りにポメに襲い掛かろうとする。
 だが……

「嗅覚が厄介ならば、風下に逃げればいい話だニャ」
 すでに敵の能力を見切っていたポメは、すでに自らの匂いが相手に届かぬ場所へと避難していた。


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