暁 〜小説投稿サイト〜
東方小噺
種族魔法使いと門番
[1/2]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
「……」

 パサ……。細い指がまた、紙を捲る。
 図書館、という空間がパチュリーは好きだ。乾いた空気や古臭い匂いもいいが、一番は時の止まった世界にいる様な錯覚を得られる事だ。
 知を収めた本の数々……絶えず動く「時間」と「成果」が文字として、歴史と編纂され止まった世界。
 そこに自分は居る

 止まった歴史に囲まれた自分。
 小間使い以外居ない静かな世界でふと、自分さえ止まりその世界の中心になる、そんな全能感に包まれる時がある。
 そんなことを思いながらまた一つページを進め、パチュリーはため息をつく。
 視界の先。そんな止まった世界にいる異物(動くもの)を見て溜息をもう一度

「……何でここにいるのかしらね」

 うろちょろと動き回る彼女の姿を見て、そう呟く。
 勿論、理由は知っている。
『暫く姿を見ていないから会いに来た』
 そう言って自分を一目見て微笑み、すぐに本棚の方へ行った彼女。
 読めもしないのに棚から出し、自分に聞きに来る。その度に自分の時間が動かされる

「パチュリー様、これ面白いですね!」
「……暫く来ないと思ったら、漫画を読んでいたのね」
「まあ、これなら聞かなくても大丈夫ですので」
「そう、それは残念ね。馬鹿なあなたに教養を教えてあげようと思ったのだけれど」
「魔術が教養はちょっと……風水の五行関連なら少しわかりますが」

 来たら嫌味を言おう。そう思っていたのに口から出たのは別の言葉。
『残念』
 何故そんな言葉が出たのか。そして何故自分は言葉を交わし、時を動かし続けているのだろうか。  
 続きの場所を聞きに来たという彼女の言葉。それに僅かながらに落胆を感じる。それが理解できない。
 ため息が、溢れる。

「疲れてるんですか? ずっとこんな所に篭ってるからですよ。久しぶりにマッサージしましょうか」
「いらぬお世話よ。ほら、用が済んだならさっさと行きなさい」  

 視線を本に落とし、もう終わりだと暗に告げる。
 暫しの沈黙の後、足音が自分から離れていく

「……」  

 意識せず視線が上がり、去っていく彼女の背中を見ていることに気づく。
 まさか、まだ何か言って欲しかったのか。
 自分は彼女に、この本をとって欲しかったのだろうか。バカバカしい。そう切り捨て、視線を本に戻す。  
 彼女が離れる。それだけで時の止まった世界が戻ってくる。

 彼女がここに来るのは初めてではない。暇つぶしと称し、本を読みに来ることは多々ある。
 武術書を漁りに来ることも、サボって昼寝をすることも。
 外に出ない私の体を気遣い、気の巡りをよくするというマッサージを受けたこともある。太極拳の動きをさせられたことも。今思っても何故従ったのか不思議だ

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ