第百二十三話 拝領その六
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「それでは」
「その様に。それにです」
「それにとは」
「東大寺にも伝えて下さい」
その蘭奢待を護っているその寺にもだというのだ。
「あの寺にも」
「蘭奢待を出す様に」
「その様にですか」
「そうです」
まさにそうせよというのだ。
「そうすれば蘭奢待も右大臣に穏やかに渡りますね」
「あの、今」
「帝、今ですが」
公卿達は今の帝のお言葉に目を瞠った、それで思わず問うた。
「織田殿を右大臣と仰いましたが」
「それは」
「まだ正式に授けていませんが」
それでもだというのだ。
「この件が無事に済めば」
「それで、ですか」
「その時に」
「はい、右大臣の官位が空いているので」
帝は確かな声で仰った。
「丁度いいでしょう」
「ですか。それでは」
公卿筆頭の近衛がすぐに頭を垂れて帝のお言葉に応じた。
「織田殿にこのことも」
「お伝え下さい」
「畏まりました」
「右大臣殿にはこれからも期待します」
既に蘭奢待のことは決まっていいるというお言葉だった。
「天下万民を安んじてもらいたいです」
「織田殿ならばですか」
「それが出来ますな」
「青は木の色であり」
帝も織田家の青を御覧になられていた、それで仰るのだ。
「東であり春、天の色でもあります」
「空の色だから青でございますな」
山科が応じた。
「左様ですな」
「そうです。織田家の青がこれまで沈んでいた日の本を明るくします」
戦乱で沈んでいたこの国をだというのだ。
「右大臣殿にはその力があります、ですから」
「蘭奢待の拝領を許され」
「そしてこれからも」
「天下万民の為に働いて頂きたいです」
帝は是非共と仰った。
「朕はそのことを期待しています」
帝のこのお言葉が全てを決めた、かくして信長は朝廷からも蘭奢待拝領を許され東大寺に赴くことになった。
東大寺には三千の兵と主だった家臣達が従う、その中で平手は信長のすぐ後ろを進みながら唸る様にして言った。
「全く、最初聞いた時は心臓が飛び出そうになりましたわ」
「何じゃ、爺の心の臓はそこまでよく動くのか」
「時折そうなりますわ」
「それで出て来たら面白いのう」
「面白いも何も今度はそれかと」
蘭奢待の話は平手にとってもそうした話だったのだ。
「どうしてそう無茶を好まれるのですか」
「無茶であろうともじゃ」
笑って言う信長だった。
「これは是非にと思ってのう」
「帝に献上されそして」
「皆にも見せたい。わしの一の人としての器も見せるものでもあるがな」
こうしたことを重ねてのことだったのだ。
「それでもじゃ」
「帝にも献上され」
「御主達にも民にも見せたいのじゃ」
「勿体ないですな」
平手は信長にこう返した。
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