1話
1話 リンネ 1
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自分を善良な市民と思ったことはないし、だからと言って背信者になった覚えもない。
よくいる若者と同じく初詣くらいにしか神様に祈ることはない。
もしそれが理由で罰を与えられたというのならば、今すぐ賽銭箱に財布ごと投げ込んでやろうと思う。
たかだか千円と顔なじみの総菜屋のポイントカードくらいしか入っていないが、ようは気持ちの問題だろう。
そんなくだらないことを考えながら俺は、ネオンに彩られたこの町を荷物を抱えて走り抜けていく。
深夜も近いというのに様々な音は止むことなく鳴り響き、それにつられるように人が溢れ返った幅の広い歩道を、走り抜けていく。
後ろからは数人の屈強な男達が追いかけてくる。闇夜に紛れるような黒のスーツを乱すことなく機械的な動きで、的確にこちらを追い詰めてくる。
追いかけられている理由はこの抱えている”荷物”のせいだろう。
警察に駆け込めば助かるかもしれないが、もし仮に警察がこの場にいたら迷わずに俺を捕まえるのは間違いない。
なぜならば、俺が”荷物”と呼んでいるのはまだ成人もしていないような小柄な”女の子”なのだから。
気絶しているのか、女の子はピクリとも動かない。死んでいないということは俺の右腕に伝わるその小さな体躯に見合わない大きな双丘のとても柔らかい感触……もとい、心臓の鼓動から理解出来る。
人目を引く長い銀髪が抱えた俺の手をくすぐり、力が緩みそうになるのを必死に堪える。
路地裏に逃げ込んで撒こうとも考えたが、出会った時に黒服達は銃を持っており、一度こちらに向けて発砲している。人のいない所に逃げ込むほうが危険なことは理解していた。
さて……俺のこの状況は何処で選択肢を間違えたことによって起こったのか、追いかけられる恐怖から
逃げるように数日前の記憶を蘇らせていた。
こんな状況にしたであろう神様に、走馬灯ではないことを祈りながら。
放課後、俺は寄り道に三宮へと繰り出していた。
特に買い物の予定もなく、ぶらぶらと歩きながら時間を潰している。友達が付き合って欲しいと言った為にわざわざ来たが本人が居残りを食らってしまい、先に来ていた。
皆考えることは一緒なのか、うちの生徒以外にもちらほらと買い物している学生が見受けられた。男同士女同士談笑しているかと思えば、カップルが初々しく手を繋いでいたりなどちょっとした人間観察をして楽しんでいる。
30分程歩き回ると、何処からか歌が聞こえてきた。とはいえ今までも色んな店から音楽が流れていたが、その歌は妙に心地よく響いてきたので、そちらに釣られて歩く。
俺が出てきた駅の反対側にある、待ち合わせに使われる広場に取りつけられた巨大なスクリーンからその歌は響いていた
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