act-1"the-world"
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タンガンで傷跡に張られた防菌パッドを示すと、ユウトは本能的に頭を下げて身を守った。無論、頭に一発食らわせるつもりがないのは分かっていても、防衛本能が勝手に働いてしまう。ユウトはため息をつきながら「そうだよ」と答えると、ショルダーバッグを机の脇のフックにかけ、机に備え付けられたラップトップを起動した。天板の中央がノートPCのディスプレイのように展開し、それに隠されていたキーボードが上面にせり出す。それと連動してディスプレイの右上にカードリーダーが飛び出すと、そこに学生証を挿入した。ディスプレイにユウトの氏名、クラス番号、授業内容が一覧となって表示され、「出席を確認しました」と言うメッセージと共に世界史のテキストが表示される。
「手痛くやられたなぁ、なんか気に触れるようなことでも言ったのかよ?」
「これの原因じゃあないけど、言ったのは間違いない…かな」
「ったく…これだから脳筋野郎は嫌だねぇ。やることったら嫌みか暴力か女を侍らせることしかねぇんだから」
「まぁ俺も女は侍らせたいけど」最後にケンジは付け加え、その言葉にユウトも苦笑を浮かべる。
授業の本鈴が鳴り、既に生徒は皆それぞれの机に着いてラップトップを起動させていた。しかし、教師の姿は現れない。「珍しく遅ェな」背後のケンジも頬杖をつきながら愚痴をこぼしはじめた。確かにケンジの言うとおりだ。世界史の担当教諭は時間にストイックなことで知られている―予鈴が鳴ったら既に教室に待機していることもあるくらいに。5分、10分と時計の針も進み、生徒たちも不満をこぼし始める中、各々のラップトップからメッセージコールが鳴り、学年主任からのメッセージを一斉に受信した。
《1-D生徒各位へ。本日の昼頃、WRFより都市地下鉄路線への爆破予告があり、現在各地下鉄及び鉄道路線が運行休止となっています。世界史担当のイシカワ マナブ先生も運行休止に巻き込まれ出勤が困難となっているため、本日は自習とします。―学年主任:フクシマ イサオ》
「なんだ今日来ねぇのかよォ、だったら昼休みでばっくれりゃあ良かった」
ユウトの背後でケンジが不満げに愚痴をこぼすと、それを引き金に教室のあちこちから「教諭が来ない」、「授業を受けずにすむ」と言う事実に対する嬉々とした声が上がった。生徒たちにはもはや自習を進めるという姿勢は全くなく、ラップトップを閉じ、各々の方法で時間を潰し始めた。ある者は漫画本を読み、ある者はわざわざ教室の反対側まで移動して友人と雑談を楽しんだり、ある者はラップトップを閉じて机に突っ伏し昼寝の続きを始めたり―ユウトとて、その一人であることに違いはなかった。勉強は確かに重要だろうが、どうせ拘束されない自由な時間ならば今は読書の続きをしたい。あくまでラップトップは閉じず、自習を装いながら、彼は文庫本のスピン
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