act-1"the-world"
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わない。決して事態をややこしくしない。
そう、決して。
ユウトはサッカーボールを拾い上げると、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら歩み寄るコウスケを見やった。背後には取り巻き―腰巾着と言っても良い―を引き連れ、自身を慕い、自身に支配されている者がどれだけいるかということをこれでもかとアピールしている。
「そろそろパシフィク・リム・カップですよね。…試合、頑張ってください」
こう言うときは適当な話題でおだてておけば穏便に済む。
「おう。まぁお前はサッカーのルールも分からないと思うけど、俺の活躍を見逃すなよ。見逃さなければ、だけどな」
いちいち嫌みを差し込んでくる。彼の脳には嫌み辞典でも入っているのか。
「えぇ、分かってますよ。…この間の大会みたいなミスはしないでくださいね」
作り笑いを浮かべながら答える。だが、ユウトはその言葉を耳にしたコウスケの表情が変わったことを見逃さなかった。―しまった、地雷を踏んだ。
この間の大会のミス―優勝を決定するその試合、緊張したのか、はたまた単に気づかなかっただけか、コウスケはユニフォームの前後を間違えたままコートに入場したのだ。先に気づいたのは観客とスタンドの面々だった。彼はあくまでエースらしく冷静に、そして好漢を演じながらユニフォームを着替え直したが、たったそれだけのミスが、彼にとっては恥辱に他ならなかった。彼の取り巻きの一人が笑い話程度でその顛末を話題にあげた翌日、その取り巻きが被虐者の一人になったのは記憶に新しい。そんな話題を既に被虐者であるユウトが口にすればどうなることか―それはこれから分かることだ。今まさに口にしてしまったのだから。
「…んだと……!」
明らかな苛立ちと怒りを表情に浮かべたコウスケはユウトの手にするサッカーボールを平手で叩き落とし、圧力をかけるように迫り寄った。
ユウトはその迫力に根負けし、一歩下がるが、それでも彼の間合いであることに変わりはなかった。コウスケのほどよく引き締まり日に焼けた腕が彼の襟元を捕らえ、グイと引き寄せる。怒りに眉を痙攣させたコウスケの顔面が目と鼻の先に迫る。今から謝罪すれば彼の怒りは修まるだろうか?否、不可能だろう。取り巻きをいともあっさりと切り捨て、ターゲットの一人にするような男だ。自らの逆鱗に触れた被虐者に対して慈悲の気持ちなどあるわけもないし、謝罪を受け入れるような寛容さもあるわけがない。「殴られる―」そう悟ると彼の拳に自然と力がこもり、来るであろうコウスケの鉄拳に身構えた。
「あんたたち、なにしてるの!?」
だがそれよりも先に割り込んできた凛とした声にユウトの、コウスケの視線が声の主へ向けられた。
「ドウミョウジ…あんたまたユウトにちょっかい出してんの!?3年が1年に手ェ出
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