act-1"the-world"
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《男》はそれを見やると目を見開き、驚愕した。
「馬鹿な、なぜだ…俺は話していない…俺は一言も話していないぞ!!」
暗闇の中に《男》の声が反響する。
だが《奴》は、くつくつと笑いながら続けた。
「君は痛みに耐えかねパスワードを教えてくれたんだよ。目もうつろで、視線も定まっていなかった…無意識だったんだろうな。…なに、自分を責めるな。仕方ないことだ」
《奴》の言葉に《男》は言葉にならないうめき声を上げながら拘束から逃れようと全身を揺さぶった。だが体を揺さぶり、捻る度に彼の体を戒める荒縄が食い込み、その肌をすり切っていく。痛めつけられた肉体でも尚、その痛みはリアルに実感できた。しかし、今は痛みに屈する場合ではない。何としてでも《奴》を止めなければならないのだ。
だが、《奴》にとってその抵抗は醜悪を以て他ならなかった。《男》の放つ悪臭、傷だらけの体、そして何よりも、環太平洋統一連合士官という肩書き―全てにおいて腹立たしい。《奴》はスーツの内に縫い込まれたホルスターから一丁の拳銃を抜き放つと、流れるような動作で《男》の額に狙いを定め、引き金を引いた。
サプレッサーによって抑制された銃声が暗闇に響き《男》の首を弾丸が貫く。
《男》は喉にぽっかりと空いた銃創から血と、己の命が流れ出ていくことを実感しながら、がくりと項垂れた。その視線が、《奴》が彼の足下に放り投げた“それ”を見止める。“それ”は医療用の注射器―それが意味することは一つだった。自白剤だ。
―…畜生……
こんな一本の注射器に俺は屈したというのか。それを口にすることも出来ず、《男》の意識はそこで途切れた。
《奴》は《男》が息絶えたのを確認すると、ラップトップのディスプレイを向き返し、そこに表示された施設の見取り図を見やる。「連合日本軍兵器工廠《ザ・ホール》」と銘打たれた見取り図を。
「そう言えば、言い忘れていたな。……ありがとう」
ディスプレイの光が、顔面に深い傷を刻まれた《奴》の表情を照らしていた。
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