act-1"the-world"
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らにとってはもはや日常的なものとなりつつあり、M.O.L.L.の警戒飛行や治安出動程度で動じる学生など、今日日存在しなかった。例え犯行予告が発せられたとしても精々M.O.L.L.の治安出動が関の山で実際にテロ行為に遭遇したことは一度もない。戦いは全てテレビやラジオ、インターネットの向こうで起きていることなのだ。今尚戦争が続いていることが事実だとしても、実感することなど出来るはずもない。
上の空で飛行機雲を眺めていたユウトの耳に授業の終わりを告げる鐘の音が届く。生徒たちは鐘の音が鳴り終えると同時に各々のバッグを手に帰路へと着く支度を始めた。雑談は授業中のそれよりもボリュームアップし、喧騒が教室に溢れる。それに負けじと、教壇の前にあった少女が声を張り上げた。学級委員長のマキセ マナである。
「みなさーん!明日は社会科見学ですからねー!先日渡した資料を忘れないようにーっ!」
「遅刻も厳禁でーす!」マナのよく通る澄んだ声は教室中に響き、何人かの生徒が返事をしながら教室を去っていった。
「さぁーってと。そろそろ帰ろうぜ、ユウト」
既に帰宅の準備を終えたケンジがユウトの肩を抱くと、ショルダーバッグを背負ったばかりのユウトを強引に廊下へと連れ出した。去り際に教室に残った生徒たちへ「バイビー」と捨て台詞を残しながら。
「そう言えば明日は社会科見学だった―」ユウトはマナの言葉を思い返す。特に理由もなく、一番最初に目についたという理由で選択した見学先は連合日本軍兵器工廠。今回の社会科見学のためにわざわざ一部エリアを開放したというもので、ケンジ曰く「今回の目玉」であった。ケンジにとってすればM.O.L.L.を始めとしたラージローダーの建造現場を目の当たりに出来るかも知れないが、ユウトとしてはごくありふれた社会科見学の一つでしかない。
―…まぁ、普通の授業よりは楽しいだろうな
ユウトは苦笑すると、ケンジの手を丁重に振り払い、夕焼けの差し込む廊下を進んでいった。
暗闇の中、天井から差し込む夕焼けの光が《男》を照らしていた。
《男》は屈強な肉体に一つも衣服を纏うことなく、パイプ椅子に縛り付けられる形で腰を下ろしていた。《男》の全身には打撲痕が浮かび、特にその顔面はもはや身内のものですらその判別が出来ないほどに腫れ上がっていた。その上に刻みつけられたような火傷の数々―それらは《男》が長期間にわたる拷問を受けていたことを示している。
ギィ、と暗闇の中に金属の軋むような音が響き、《男》は視線をあげた。暗闇に姿が隠れているが、それは紛れもなく《奴》であると《男》は確信した。
「……君の協力に感謝する」
《奴》は静かに告げると、暗闇の中で何かを開き、それを《男》に示した。ラップトップのディスプレイだ。
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