act-1"the-world"
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を出すくらいなら、この素晴らしい小説の世界に何度も入り込む方が良い。三度目の物語は序盤を終え、プラント内へ潜入した主人公が地獄の惨状を目の当たりにする場面にさしかかった。そして主人公はその惨状を引き起こした悪魔のようなテロリストに背後を取られ―突如現れた兵士がこう叫ぶのだ。
「伏せろ―!」と。
その台詞を読み終えた直後、ユウトの側頭部に衝撃と激痛が走り、それをまともに受けた彼の体は大きく右へよろけた。一瞬の衝撃に意識が明滅し、やがて左のこめかみに直撃したそれがサッカーボールであったことを理解する。「今の台詞の通り伏せていれば避けられただろうか」など、今更手遅れなことを考えながら。
「大丈夫か、おい?ちゃんと前見えてるかよ?」
こめかみを押さえながら起き上がるユウトの耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。心配しているようで、一切慈悲の気持ちの伝わらない、まるでこちらを小馬鹿にするような声が。そこに目を向けるや、やはりそれは月之宮高校サッカー部のエース、ドウミョウジ コウスケであった。身につけたビブスには、栄光の背番号5。月之宮高校サッカー部には最も実力を持つものにその背番号が与えられることが伝統であり、それを誇示するかのように昼休みのちょっとした戯れであるにも関わらずビブスを身につける彼はその行動が示すように自信家で過度な自己顕示欲の持ち主であった。それだけなら可愛いものだが、彼はそこに支配欲まで同居させているからタチが悪い。詰まるところ彼は“いじめっ子”であり、自らよりも立場の弱い、そして自らが気に入らないと判断した相手に対する嫌がらせや圧力に興じる悪癖があった。そしてその悪癖のターゲットは被虐者―他ならぬユウトだったのである。
「本に集中するのも良いけど回りには気をつけろよ。俺らだってプレイに集中してお前なんかに気を遣ってられねぇんだからよ」
「はい…分かってます。……気をつけます」
「本当は狙って蹴ってきたんだろ」ユウトは決して口にすることなく、その悪態を心の奥に封じ込めた。このようなことは今日に始まったことではない。ロッカーに荷物をしまい込むだけで肩をぶつけられたり、食堂で食事中に「手が滑った」と良いながら食べかけのトレイに牛乳をこぼすなど、幼稚で、悪質な嫌がらせを受けることは日常茶飯事だった。原因は分からない。コウスケとて理由無くこのようなことをしているわけではないだろうが、少なくともユウト自身に嫌がらせを受けるような心当たりはなかった。―だが、「やめろ」、「謝れ」などと言ったところで、彼がこの嫌がらせをやめるわけが無く、言えば余計に事態をややこしくすることは明白であった。その例を何度も見ている―全てより悪い結果を招くだけであるが。だからユウトはどのような仕打ちを受けても、ただ耐えるという選択を貫いた。決して逆ら
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