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Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]
常識の埒外に生きる少女
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情を抱いたのだろうか。
恐らくは、言葉では形容できないほどの喜びが支配したに違いない。
そうでなければ、こうして思い出語りの内容に出る筈がない。

「一切の見返りも求めず、ただ私が困っていたからという理由で彼は私を助けてくれた。そんな無償の善意を当然のように振りかざすその姿に、私は自分を重ねました。―――いえ、重ねたなんて烏滸がましいですね」

言葉尻がすぼみ聞き取れなかったので聞き直そうとするも、すぐさま早苗の語りが続き機会を逃してしまう。

「あの時は精神的に安定していなかったせいで、彼と何を話していたかまでは覚えていません。ですが、人生の中で一番記憶に残っている場面でした。名前は聞きそびれちゃいましたけど、学生服が近所の学園のものだとわかりました。本当はこちらから再び会って、お礼のひとつでもしたかったんですが………その時、祖父が急病になり急遽本殿のある家に帰ることになって、結局会えず仕舞いになりました。そして祖父がそのままお亡くなりになったことが切っ掛けで、幻想郷に行くという話が持ち上がったんです」

「そうだったのか………」

「急遽のことでしたので、知り合いの誰とも別れを告げる暇がなかったのが今でも心残りです」

自分の助けとなってくれた人と今生の別れとなるにも関わらず、別れの言葉ひとつも言えなかったのは、優しい彼女のことだ、さぞもどかしかっただろう。

「恐らくあちら側は私のことなんて忘れているでしょうけれど、それでも私は忘れません」

「―――忘れてはいないだろう」

「え?」

「勘だがな。恐らくその三人とも、君のことは忘れていない。記憶の中に埋もれていたとしても、君の存在が忘れ去られているということはない。そんな気がするんだ」

慰めのつもりで言った訳ではない。本能的にそう悟ってしまったのだ。
理屈も道理も投げ捨てた意見だったせいで、つい言葉にしてしまった。

「………だと、いいですね」

淡く微笑む早苗の姿を見て、胸を撫で下ろす。
こういう無神経な発言が時に人を傷つけるのを知っているからこそ、そんな軽率な行動を起こした自分を戒める。

「―――あ、河原が見えてきましたよ!」

微かなせせらぎと共に視界に映る河原に、嬉々として走り出す早苗。
その後ろ姿を眺めながら、ひとつの決意をする。
諏訪子と神奈子に、早苗のことを聞く。
主観的な事実はもう聞いた。
後は早苗の人生をずっと見守ってきた彼女達が、現状の早苗に対してどのような感情を抱いているのか。
そして一番気になる、一般人との垣根から来る早苗の苦悩を理解していたのかどうかを聞き出す。
最初は必要以上の干渉を避けていた自分が、まさか率先して早苗に関わろうとするとはな。
元よりここまで込み入った内容かはともかくとし
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