第二章
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んだ。…そいつもあんたと同じで、決めつけたんだよ。家族は、死に行く自分に『一番大事に思っていた』などと告白されても、困るだけだろうと。で、最期の最期に強がりで、あんたに余計な伝言を残した」
「………」
「でもな女よ。家族に『一番大事だ』と言われるのは嫌いか」
「……そんな…馬鹿な」
「そんな馬鹿なことを、あんたもその男も考えたようだがな。大局を見ろ、女よ。そいつの最期の本心を家族に伝えられるのは、あんたしかいない」
そう言い切って、俺は再度麗人と目を合わせた。俺を数秒見つめた後、麗人は発泡酒をぐいと呷り、泣き崩れた。
「……私…ほんと馬鹿ですね……」
俺の部屋で美女が大酒呑んで号泣している。
…大椿事である。今すぐこの号泣美女を写メして仁藤あたりに送信して羨ましがらせたいものだ。さらばブラックデー。…しかし、この状況で携帯持ち出して写メしておおはしゃぎで送信などしたら、折角いい事言ったのに『百日の説法屁一つ』を地で行くはめになるのだろうな。すごくウズウズしたが、溜息と共に写メを諦めた。
「……やっぱりダメです、私なんて。分かってるつもりで、何も分かってなくて…命令されると、自分で考えることを放棄しちゃって…」
半ダースの発泡酒を呑み尽くして、麗人は卓袱台に伏せた。
「さっきの犬さんに、食べてもらう価値もないです……ね……」
ふぅ…と深い吐息を残して、卓袱台に頬をつけたまま眠りに落ちてしまった。拾ったときと寸分違わぬ、哀しい幼子の表情を浮かべて。
―――不思議な女だ。
「あんたも、傷ついたんだろうに…」
不遇のうちに死んでいった上司を悼んで、散々に泣いた。見知らぬ俺の前で。
だが、あんただって傷ついたんだろう。俺には語ってくれなかったが、恐らく…。
自分のために泣いてやることが出来ず、癒されないまま放置されるあんた自身の傷は、どうなるのだろうな、麗人よ。
電気を消すと、窓から月光が差し込んできた。月光は、初めて会ったときと同じように、この人の頬を蒼白く染め上げ、長い睫毛の影を落とした。
起こさないようにゆっくりと座布団の上に倒し、お袋が送ってきたタオルケットを掛けた。時計を見ると、もう3時を回っていた。
――そろそろ、夜があける。
麗人を寝かせたあと、家を出た。
卓袱台の上にスペアの鍵を置いてきた。出るときは施錠して、ドアのポストに放り込んでおいてくださるように、と書置きして。
ということは俺は、彼女が起き、部屋を出るくらいまで外で時間を潰さなければならないのだ。
近所の公園のベンチで横になってみたが、春とはいえやはり夜中の3時は正直きっつい。もう眠るのは諦めて、暇つぶしにと持ってきた、よく知らない作家の短編集を繰る。しかしさっぱり頭に入ってこない。寒いのだ、絶対的に。
なにをし
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