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されど、我らが日々
第二章
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を覆った。指の隙間から、涙がにじんだ。
「お…おい、女よ」
「…ごめんなさい…近所、迷惑ですね」
鼻をぐずぐずいわせる麗人に、ちり紙を取ってやった。皿を片付けるフリをして席を外すと、背後でちーん、と鼻をかむ音がした。
「…誰かに、一番やりたいことを聞かれたときに、少し表情を和らげて言ったんです。家族を連れて、温泉で長逗留でもしてみたいですね、って」
「…模範回答というかんじだな」
「そうですね。模範回答です。非の打ちようがない…」
寂しげに微笑んで、麗人はまた俯いた。
「でもね…本心だったって、最期になって分かったんです。あのひとにとって本当に大事なのは、ご家族だった…だから自分は踏み違えたんだって、語ってくれました」
俺は月を見上げた。乱視の俺には、幾重にもだぶって見えて輪郭がはっきりしない。この話の輪郭すら、はっきりしない。
「だけどご家族には、なにも伝わってなかった」
麗人の声だけ聞きながら、もうぬるくなった発泡酒を呷る。…よく聞く話だ。家庭を持たない学生の俺には、まったくぴんとこないが、とにかくよく聞く話。
「奥さんもお子さんも、取り澄ましてました。大事な家族を亡くしたとは思えないくらい…とても冷静で、みんな『立派な態度』って…さすが、伊佐木さんのご家族だ…って」
―――深刻な話中に申し訳ないが、俺は別のことを考えていた。
この女の顔を、今もう一度月明かりだけで拝みたいものだ。電気を消せば、蒼白で華奢な横顔を月が照らし出すだろう。…しかしあらぬ誤解も招くのだろうな、麗人よ。
「……死んだ人の思いは、もう永久に届かないんでしょうか」
「………あんたが、伝えてやったらどうだ」
麗人が顔を上げて、俺の顔を凝視した。切れ長の大きな瞳に見据えられ、つい目をそらしてしまった。…目尻に光る涙のあとが、妙に艶かしくて目のやり場に困る。
「……でも、口外するなって……」
「嘘まみれの人生を送った男が、最期に残した言葉は何だろうな、女よ」
「………」
「それも、嘘だ。いちいち額面どおりに捉えるな。…可哀想だろ」
「可哀想…?」
「結局は強がりなのだ」
まったく…小利口なようだが、間の抜けた女だ。どっかの誰かのようだ。
「あんたは、分析が好きなようだ。だからなんだろうなぁ。行動パターンばかりを追って、本心を見落とすのだろうな」
俺の後輩にもそんなのがいる。分析ばかりが好きで、大局が見えない奴が。だからあいつは、能力はあるのに肝心なところでツメを誤る。…いや、奴は可愛い彼女をゲットした。誤っているのは俺のほうなのか…。
「…どうしたのですか?ひどく…落ち込んで見えます」
「いや、なんでもない。…つまりだ。憶測で言うが、その男は死ぬ前に『ついうっかり』あんたに家族の話をした。話さずにはいられなかったんだろう。でも後悔した
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