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されど、我らが日々
第一章
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佐々木がずり落ちぎみの眼鏡をくいっとあげて、仁藤を押しのけてドアの隙間に鼻を突っ込む。…思い切っても何も、最初から女装のセンには無理があろう。
「あいつには妹がいるはずだ。春になって上京してきたのかもよ」
成る程。佐々木にしては論理的な。
「奴の妹か…童顔系だな。意外といけるかもしれんな」
仁藤が埴輪から一転、変質者の顔つきになった。自分の妹を友人にガチで狙われる気分はどうだ、姶良よ。

「姶良―、Tシャツ干しっぱなしはダメだよ。色が焼けちゃうよ」
「あ、うん…ありがと」

「…兄妹同士が苗字では呼び合うまい」
2人の表情は、見えない。無理に見ようとも思わない。それでも衝撃の気配だけは、ビシバシ伝わってくる。
「で…デリヘルだ!」
「あいつにそんな金があるか」
このぼろい下宿を見れば分かろうが。そう言おうと、下宿のぐるりをざっと見渡した。
「………」
そうか。
ドアの隙間で、いまだに親戚だ、恋愛感情ない幼馴染だ、と不毛な議論を展開している彼らの肩を叩いた。…俺は、非情な発見を伝えなければならない。
「…なんすか」
「議論は終わりだ。あれを見ろ」
下宿の門の少し手前。街灯の明かりがぎりぎり届くその場所に、それはひっそりと停めてあった。

ビアンキの、自転車。




回想、終了。
俺達は、逃げるようにして姶良邸を後にしたのだった。
そして現在。男三人、空ろな目をしてジャージャー麺をすすっている。
「……世の中、間違っていますよね」
佐々木が、ジャージャー麺の山から顔を上げた。あまり食が進んでいない。
「よりによって…柚木ちゃんなんて」
「間違っているのは、世の中なのか、俺達なのか…」
一応、口にしてみた。今日の俺達の行動を鑑みれば、間違っているのは確実に俺達のほうなんだが。
「……誰だよ、ブラックデーやろうとか言い出したのは」
仁藤の口ぶりからすると、言いだしっぺは佐々木か。…なぜこいつは、こう軽はずみなのか。…俺も、か。
「……ジャージャー麺って、苦いっすね」
「気のせいだ。苦いのはお前の気持ちだ…佐々木よ」
「…俺ら馬鹿みたいだな」
完食した皿に割り箸をからりと投げ込み、仁藤が呟いた。
「俺らだけで決行してれば、ここまでの落ち込みはなかったんだろうな…」
「そうだ!あいつが悪い。これ見よがしにブラックデーに平和に彼女と飯を食いやがって。あいつとはもう絶交だ!」
…佐々木。姶良は恐らく、ブラックデーという行事を知らない。
「絶交ってお前…小学生じゃないんだから…」
「気軽に使える溜まり場が一つ、減ったことは確かだな…佐々木よ」
店内に、黒服の奴はほとんどいない。このイベントが日本にさほど浸透していなくてよかった。…そう思いかけたが、浸透していればこの空間は似たような
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