第一章
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物件を選ばなかったことだろう。案の定、姶良の下宿は悪しき部員たちの溜まり場となり、買い置きのカントリーマァムとじゃがりこは常に食い荒らされることになった。…まぁ、俺達もまさに奴の下宿を襲撃し、非モテイベントに連行しようとしているのだが。
姶良の部屋の明かりは、ぼんやりとにぶく灯っていた。ふわり、と何やら旨そうな匂いがもれてくる。奴は料理中らしい。
「…哀しい、哀しいぞ姶良!」
仁藤が袖で涙をぬぐうフリをした。
「独りで食べる手料理は、豪華であればあるほど哀しいなぁ…」
佐々木も追従する。俺もこの時点では、一抹のもの哀しさを感じていた。姶良、お前結構哀しい奴だな。…分かってる。その哀しみ、俺達と分かち合おう。今初めてブラックデーの意義をひしひしと感じたぞ、姶良よ。
「おい、鍵出せ」
佐々木に命じて、鍵を開けさせる。
数ヶ月前、合鍵の件が柚木経由で姶良にばれた。(俺はそこも怪しいとにらんでいたのだが)珍しく怒った姶良に待ち伏せされ、残りの鍵も没収された。だが実はもう一つだけ、スペアの鍵を作っておいたのだ。…これはしかるべき時に使い、怒る姶良に笑いながら返してやろうと思っていた。
鍵を開けてそっとドアを引くと『かつん』と音を立てて止まった。
「…奴め、チェーン掛けてやがる」
佐々木が小さく舌打ちしてドアの隙間から覗き込んだ…瞬間、凍りついた。
「………どういう、ことだ」
玄関の隅にちょこんと揃えられた、小さな女物のサンダル。薄茶色いシューズの横に寄り添うように置いてある。仁藤が吼えた。
「……おっ女!女か!!」
「即断するのは早い!…奴に女装の趣味があるのかもしれん」
「なるほど、彼女ができる確率よりは、そっちのほうが高そうだ」
―――お前に彼女ができる確率よりは、姶良のほうが若干高いだろう…仁藤よ。
「MOGMOGのエロい着せ替えツールを喜んで持ち帰るような奴だぞ!」
―――それはイタいな。あとで拝見しよう。
「オムライス、できたよ」
―――よく通る女の声が、部屋の奥から聞こえた。
ドアの隙間を覗き込んでいる2人の顔を、横から覗き込む。…埴輪のような顔が一対、ドアの隙間を挟むように対峙していた。そいつらがゆっくりと俺の方を振り返り、埴輪のまま呟く。
「…先輩」
「何だ」
「埴輪みたいになってますよ」
「俺もそんな顔をしていたか、佐々木よ」
女だ。明らかに奴の部屋に女が1人いる。
「いや即断するな!…エロDVDかもしれん」
「オムライス作りから始まるんじゃ、コトに及ぶのはだいぶ先だな、仁藤よ」
「裸エプロン系ならありえるじゃないですか!つまり奴は女装で料理しながら裸エプロンを鑑賞しているのですよ!!」
「…属性のはっきりしない変態だな、仁藤よ」
「いや、思い切って女装のセンは捨てよう」
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