第二部まつりごとの季節
第三十八話 日常の終わり、軍人として
[7/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
四聯隊 本部官舎会議室
独立混成第十四聯隊 連隊長 馬堂豊久
「――却説、諸君。」
見回した面々の顔と事前に目を通した人務書類を照らし会わせながら言葉を紡ぐ。
「この聯隊を預かる馬堂だ。
この部隊は諸兵科連合という少々特異な編成を行っている。
つまりは単隊で多勢に抗するための編成であり――つまり戦場ではそうした場に送り込まれる事になる」
見回すと百名近い士官達の一部が苦笑している。
「身に覚えのある者も居るだろうが、戦場では将校も兵も貴賎なく死ぬ――それに耐えうる部隊を造る、だれが何名死んでも機能する。
どの部隊を失ってもそれに対応して遅滞なく対応できる、そうした軍隊の基本を可能な限り体現した部隊とする。これが聯隊長の方針だ」
緊張した面持ちの者も居れば泰然とした者も居る。
――こんなところかな。
「――もちろん、諸君らがそれを耐え、御国を守るに足る者であると私は信じている。
それでは――順に官姓名を報告してもらおうか。」
・
・
・
連隊長室に戻り、ようやく気の置けない面々だけになった。
「さて、つかみはそれなりかな?」
自身が演ずるべき指揮官の声を意識しながら聯隊長は慎重な口調で首席幕僚達と言葉を交わす。
「つかみって芸人じゃないでしょうに」
大辺が苦い顔をしているのを尻目に冬野が笑っている。
「ま、連隊長殿も中々どうして良い役者ですよ。少なくとも自分は喜んでまた御一緒させていただきますよ」
――やれやれ、有り難いこった。、手抜き上手な熟練の下士官が付いてくれるのは有り難いからな。
「あぁ、そうだ大辺、将校連中の俺に対する不満はあるか?
あぁ、いや、不満を持たれるのは良いがそれで士気が下がっては困る」
意識してさりげない口調で尋ねるが、豊久が内心では一番気にしていたことであった。
――特に古参の大隊長達に独自裁量の乱用をされたらこの聯隊の意味がない。
北領で死んだ生真面目な中隊長の姿が脳裏に浮かんでいる。
「其方はそう酷く有りません。この連隊でまともに戦争をしたのは貴方の大隊に居た者だけですから〈帝国〉軍を相手にまともに戦えた将校に従わない愚か者はいませんよ」
大辺の自嘲混じりの言葉にあの兵理研究会で聞いた先達達の言葉を思い出す。
「その方が良かった――だが戦争が始まった以上はそうも云っていられない。
剣虎兵幕僚と砲兵幕僚と手分けして三人で訓練計画を作っといてくれ。
訓練幕僚が着任したらお前の業務は訓練幕僚に移管させるから暫くの間は頼む」
「はい、聯隊長殿。それで訓練計画の大方針としてはどのようなものにするつもりでしょうか?」
「聯隊長としては小隊、中隊単位での自立性の確保と各兵科ごとの相互運用――特に銃兵大隊に剣虎兵と協同した
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ